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2008.06.25
NAS のキャリア、後半戦。ヒップホップ・イズ・デッド?
●今日も天気いいね。なんか知らんけど。

●ウチの息子ノマドが「オレってオンナのコに人気があるんだよ」と最近錯覚気味なのは前にも書いたが、イモウトヒヨコまでが「ヒヨコ、オトコのコにモテルみたい」と言い出した。何じゃそりゃ。
●「このまえ、00くんがオトナリにすわりたいっていってきた」とか、それぞれは非常にミクロな出来事なんだけど、一丁前にオトコのコを意識しだしたのであろう。「このまえはね、リクくんがいっしょにおサンポいこうっていってくれたんだよ」ほほう、やるじゃないかヒヨコ。どんな時にリクくんお散歩に誘ってくれたの?「ヒヨコがね、モルモットちゃんになってあそんでたトキ」……それは、お散歩デートではなく、愛玩動物を散歩に連れて行く感覚なのでは?ヒヨコ、それでオマエは四つん這いで散歩したの?
●さてと、今日もN.Y.の天才ラッパー NAS のキャリアについて書いちゃいます。
●前回(6月22日)の記事では、1st から5th まで5枚のアルバム、1994〜2001年までの NASくんの動きを見てきました。N.Y. のドープなリリシズムを代表してシーンに登場した若き天才は、セカンド以降は、90年代後半風のメジャー路線に近寄りつつ、より存在感を持つに至る。しかし、N.Y.の覇権を巡って JAY-Z との確執も勃発。ビーフ合戦が過熱する。
●前回記事コメントに、ohguchi が「デビューしたてのころ、「NASを聴いてる」ってだけでちょっとインテリ気分になったりしてましたw 」と寄せてくれました。そうだそうだ、NAS ってアタマ良さげなヒップホップエリートな感じがあったんだよねー。うんうん。スゴく共感できるコメント。1994年当時はそういう雰囲気だったんだ。
●そんで時代は2002年。
●1996年以降から時流となった PUFF DADDY の THE HITMEN や TRACKMASTERS などなどのメジャー系プロデューサーの時代は微妙に変質し、もっと斬新な感覚でヒップホップを解釈する新しいトラックメイカーが数々登場した。そして耳の早い PUFF DADDY(このころは P.DIDDY に改名した頃かな)や JAY-Z のような経営感覚の鋭いヒップホップ起業家の手でどんどんフックアップされた。
●この頃シーンに躍り出たトラックメイカーといえば、THE NEPTUNES、KANYE WEST、JUST BLAZE、SCOTT STORCH、SWIZZ BEATZ、9TH WONDER、WILL.I.AM、RICH HARRISON、LIL JON……。枚挙に暇がない。そして、重要はポイントは、彼らの過激なビート実験が、ヒップホップゲームの最先端、ビルボードチャートの頂点で行われていたことだ。彼らは自分たちの先鋭的トラックを商業的成功と両立させたのだ。ボク個人の造語としてこの世代を「00年代スクール」と呼んでおく。この段階でヒップホップはアングラカルチャーではなくアメリカのポップソングのど真ん中に来てしまったわけだ。…その一方でアンダーグラウンドな動きがなかった訳じゃないんだけど、その話はまた別の機会に。
●神の子、NAS。参謀に SALAAM REMI を迎える。
●「GOD'S SON」2002年
●「神の子」ってのも極端なタイトルだよねえ。ナズくん相変わらず。オナカに「GOD'S SON」ってタトゥーを前から入れてるんだって。ま、それはおいといて。
●NAS はこのアルバムからスゴくファンキーになった!すいません、こんだけ評価の定まったアーティストにボクなぞがケチつけるのは暴論もイイとこなんだけど、敢えて言わせてもらうと、NAS の今までのラップは固いんですよ。スキルが高過ぎて、言葉の密度感がスゴい。言葉の運び選び韻の踏み方は、英語を解さずとも伝わってくる。でも、もはや早口言葉級のスピードでまき散らされるライムは、時としてトラックから乖離して剥がれちゃうような感じがしてた。トラックのグルーヴを無視して早口言葉に没入してる感じ?初期のトラックはストイックで研ぎすましたループで遊びの余地がない。メジャー期のトラックも大味な部分が NAS のラップとシックリあってないような気がしてた。
●しかし、「ザ・カメレオン」の異名を持つ男 SALAAM REMI が組むトラックにはファンキーな生々しさがあり、NAS のラップをウマく立たせるような細かいブレイクがフロウ一つ一つに合わせて散りばめられてる。NAS は NAS で、そのトラックをウマく利用して自分のグルーヴを制御し、時にスキマを作り、時にテンポを落とし、メロディをつけたりして、緩急をつけたフロウを見せてくれる。結果、ボクが言いたいのは、このアルバムは傑作だ!
●この SALAAM REMI が3分の1以上のトラックを提供。白い悪鬼 EMINEM も彼特有のシンプルでそのシンプルさがそのままダークな狂気に聴こえるトラックを一つ提供。客演陣は、弟のグループ BRAVEHEARTS、奥さんの KELIS。ALISIA KEYS との共演曲「WORRIOR SONG」は彼女自身の作曲。意外なほどタフなトラックだぜ。で彼女のコーラスも実にタフ。ALISIA 見直した。ベートーベン「エリーゼのために」の大ネタ使いはご愛嬌?ヒットしちゃったらしいけど。
●そして聴き所は 2PAC の遺作音源で構成した疑似デュエット「THUGZ MANSION (N.Y.)」。つーか 2PAC の既存曲「THUGZ MANSION」をリミックスしたようなモノかな。メランコリックなアコギだけで組まれたトラックは耳に爽やかで、J.PHOENIX なる人物のコーラスも淡く響く。感涙モノ。
●ちなみに、内ジャケにはこの年がんで亡くなった実のお母さんの写真が。とっても美人さん。R.I.P.。ブラックパンサー党のマネっこもしてます。
●ところで、JAY-Z とのビーフはどうなったって?
●執拗な JAY-Z の口撃に対して、NAS は粋なやり方で決着をつけた。このアルバム収録曲「LAST REAL NIGGA ALIVE」で、自分と JAY-Z を映画「スカーフェイス」(監督:ブライアン・デ・パルマ、主演:アル・パチーノ)の登場人物になぞらえ、この名画に敬意を表しつつこの抗争を表現した。キューバからの不法滞在者トニー・モンタナが、コカイン密輸で巨大なギャング組織を作り栄華を極めつつも、最後には壮絶な最後を遂げるこの映画。ヒップホップの生き様を象徴してるが故に、黒人さんにはカルト的な支持を持つこの作品、絶対見ないとダメよ。この鮮やかな表現が功を奏したのか、この後ビーフは沈静化していく。
●2枚組の NAS。ファンクが濃くて胃もたれ寸前。
●「STREET'S DISCIPLE」2004年
●「STREET'S DISCIPLE(訳して『路上の使徒』)」。このフレーズは、NAS のキャリアの原点になった客演曲 MAIN SOURCE「LIVE AT B.B.Q.」で彼が最初に放った言葉。「ダ・ヴィンチ・コード」で有名になった「最後の晩餐」を連想させるジャケ。本来質素なあの絵に比べてシャンパンの数が多過ぎますが。カミサマ志向強過ぎなんですけど。で、さすがに二枚組。聴くのにも気合いが入ります。
●で、イキナリですが、ビートがファット過ぎます。基本は SALAAM REMI、そして前作ではハブにされてた L.E.S. が EXEC.PROD にクレジットされて、ウンとブットいビートをカマしてきます。イントロ明け一曲目の L.E.S.、2曲目の SALAAM REMI 制作曲ですでに血中ファンク濃度が脳溢血寸前まで高まります。NAS のラップもビートにウマく寄り添い実にファンクに機能します。
●でもまず最初の聴きドコロは Q-TIP (ex. A TRIBE CALLED QUEST)制作の「AMERICAN WAY」。コーラスは「サンダービッチ」 の異名を持つ NAS の奥さん KELIS。ファ〜ンク。ブットい四ツ打ちのデカい柱の間をクールにすり抜ける NAS のマイク捌き。ダルなコーラスがファンクなシズル感を4割増。
●L.E.S. が腕を上げてるんだよな〜。「DICIPLE」も分かり易いアクセントと、プロレスラーがマットの感触を確かめるように受け身をとってみせるような、ドカッドカッとしたビートを組んでくる。そんなんで8曲も担当してる。「REST OF MY LIFE」では変則ビートで微妙なツッカえ感を演出しつつ AMERIE をコーラスに召喚。CHIC 使いのヒットシングル「JUST A MOMENT」はボク的にはまあまあ…。でも一枚目を締めくくる「REASON」、2枚目を締めくくる「ME & YOU (DEDICATED TO DESTINY)」は湿り気タップリの女性ボーカルのフィーチャーでネットリグッドです。
●ほんで、本命はやっぱ SALAAM REMI ですわ。さすが「ザ・カメレオン」、変幻自在のテクニックで様々なアイディアを繰り出してくる。「SEKOU STORY」はオーソドックスな高速ヒップホップと思いきや、途中でイキナリテンポダウンして JB一派のファンク猛女 LYN COLLINS(名曲「ROCK ME AGAIN AND AGAIN AND AGAIN AND AGAIN AND AGAIN AND AGAIN」!)のサンプルでねちっこいR&Bに変貌する。アルバムタイトル曲「STREET'S DISCIPLE」ではチェロ生弾きループの不協和音でアタマが揺さぶられる。「VIRGO」ではみんなダイスキ HUMAN BEAT BOXIN' の人気者 DOUG E. FRESH がブッ!ブッ!ブッ!と味のあるビートをマイクに吹き込んでます〜。スピーカーからダグのツバが吹き出てきそうなロウな録音。「NO ONE ELSE IN THE ROOM」は MAXWELL の透明感ある高音コーラスを翼にして飛翔するハイテンポファンク。THE HITMEN 関係者 CHUCKY THOMPSON(今回この人なにげに6曲も関与してます)とともに完全ヒップホップバンド仕様で構成。続く「BRIDGING THE GAP」は NASパパの OLU DARA さんが全面参加、泥臭いブルースのニオイがプンプンするハーモニカやトランペット、リードギターまで弾いてる。オッサン臭いラップもしてるかな?やっぱ SALAAM REMI は全部自分でドラム、ベース、ギターなど大方の楽器を演奏できるし、バンド(ホーン隊からクラリネット、フルート、チェロまで)をコーディネートして生ファンクでトラックを作るのが強いよね。それだけ表現の幅も広いし、とにかくファンキー。このアルバムでますますSALAAM のファンになっちゃった。
●そんでその SALAAM にサンプラーの使い方を教えてもらった NAS 自身も2曲制作。BASTA RHYMES を連れてきた二枚目のドアタマ「SUICIDE BOUNCE」は自殺寸前の緊張感をオーケストラのサンプルで煽りながら高速でラップするクールな逸品。鮮やかだわ。もう一曲は敬愛する伝説のN.Y.ラッパー RAKIM の伝記を勝手にラップする「U.B.R.(UNAUTHORIZED BIOGRAPHY OF RAKIM)」。硬質でストイックなビート作り。
●でさあ、結局JAY-Z とのビーフはどー決着したわけよ?
●JAY-Z はしばしば引退発言して業界を驚かすオトコなのは皆さんご承知ですが、一番本格的な引退宣言だった2003年「THE BLACK ALBUM」のリリースの後(この後 JAY-Z は確かに客演はすれど自分名義のリリースは2006年までしなかった)、一気に態度が軟化し(半ば隠居気分?)インタビューでも NAS への敬意を表する発言をするようになった。NAS も同様で、お互いが批評しあい切磋琢磨し商業的成功へと助け合うべきだという論調ができた。1996〜1997年、2PAC と THE NOTORIOUS B.I.G. が相次いで殺された悲劇のビーフと違い、ある種のプロモーション手段としてのビーフという認識が今の業界の常識になった。
●おいおい、ちょっと待てよ、ビーフはデキ勝負の宣伝戦略かよ?…とお思いの方もいるかもしれない。でもプロレスってある意味「アングル」として勝負の道筋が決まってるじゃん。でもリングの上でカラダブツケ合ってんのはホンモノだよね。それと同じかな。自分のラップでケンカを売るのもイイが、ケンカを買う方も自分のラップでやり返しな!そこでギャングを使って殺し合うのはナシだっつーこと。プロレスラーや格闘家がリングの外で殺し合いしないでしょ(亀田兄弟はビミョー寸前だけど)。
●そんでですね、2005年、JAY-Z は「オレ様には誰一人好き勝手なコトは言わせないぜー!」とか言って客を煽ってたクセして、スペシャルゲストでステージに NAS を上げ、共演しちゃうのだ。コレにてこのビーフには終止符が正式に打たれた。
●おまけに商魂逞しい JAY-Z は当時自分がCEOを務めてた DEF JAM RECORDINGS に NAS を契約させる。なんと NAS の新譜は、5年ほどもいがみ合ったライバルのレーベルからリリースされることになったのだ。
●ヒップホップは死んだのかな?いや、アメリカが死んでいる。
●「HIP HOP IS DEAD」2006年
●「ヒップホップは死んだ」。これまたセンセーショナルなタイトルだ。このタイトルを巡って様々な議論が起こった。英語版 WIKI にまた興味深い事が書いてある。NAS がとあるインタビューに答えた言葉だ。「...基本的にアメリカが死んでいる。コレは政治のハナシじゃない。音楽が死んでいる。オレたちの考え方が死んでいる。商売の仕方が死んでいる。この社会の中の全てで進行している。オレたちにとって国と言える場所で起こっている事だ…」
●「音楽が死んでいる」。コレに反応したのがサウス系のヒップホップの連中だ。NAS は要するにオレらのクランクやスナップ系のチープなビート感覚にケチをつけてるんだと。一方でN.Y.を中心に NAS を支援する声も。常に議論を呼ぶ男、NAS。
●とか言って、ヒップホップ最大のレーベル DEF JAM からのリリースということで、ぶっちゃけ内容はドメジャー路線の時代に逆戻りしたっぽい感触。L.E.S. や SALAAM REMI の存在感は後退して、00年代スクールのクリエイター、SCOTT STORCH、WILL.I.AM(BLACK EYED PEAS)、KANYE WEST、ノルウェー人トラックメイカー STARGATE などが投入されてる。あ、DR.DRE のオッサンも参加。うーむ金に糸目を付けない JAY-Z らしいやり方だ。そんでうとう長年の宿敵 JAY-Z と NAS の共演が果たされる。この曲「BLACK REPUBLICAN」、心なしか二人のラップも気合い入って聴こえます。
●さて、聴き所。SALAAM REMI にしっかり心を奪われたボクは、彼と NAS の共同制作「WHERE ARE THEY NOW」にまずシビレル。JAMES BROWN のファンクビートを骨格に使ったミドルスクール風味とも言えるスピード感溢れるトラックに腰が動く。
●表題曲「HIP HOP IS DEAD」は WILL.I.AM の制作。BLACK EYED PEAS で確立されてるクロスオーバー的なヒップホップ感覚(ロック感もあればファンク感も兼ね揃えるダンスミュージック)を大々的に導入。DEF JAM の秘蔵ッ娘 CHRISETTE MICHELE をフィーチャーした「CAN'T FORGET ABOUT YOU」ではなんと NAT KING COLE の激有名曲「UNFORGETTABLE」の大ネタ使い。つーか、最後は NAT KING COLE がたった一人で朗々と歌ってますがな。ここだけ聴くとCD間違えたのかと思うわ。
●KANYE WEST もエエ仕事してまっせ。「STILL DREAMING」では自分でリードのヴァースを預かって、CHRISETTE MICHELE のクールなコーラスを温もり持たせて漂わす。「LET THERE BE LIGHT」では生ドラム採用でスネア捌きをホットにしたトラックに、TRE WILLIAM なる男性シンガーを招集して、男汁が滴り落ちるソウルチューンを編み出す。うーんたまらん。
●THE ROOTS のピアニストからトラックメイカーに転身した SCOTT STORCH、その手堅い仕事に人気も高いが、スンゲえアイディアのある人じゃない。提供曲「PLAY ON PLAYA」では客演に犬将軍 SNOOP DOGG をお招き。MARVIN GAYE をサンプルしたトラックと、この唯一無二のフロウを持つゲストで確かな逸品に仕上げました。
●一方、この時期には N.Y. に新たな勢力も台頭。50 CENT 率いる G-UNIT である。
●銃弾を全身に浴びながら生き残った元ドラッグディーラー 50 CENT は N.Y. に新しいマッチョイズムとギャングスタスタイルを導入、シーンの中心に躍り出た。LLOYD BANKS、TONY YAYO、YOUNG BUCK を舎弟にして、既存勢力を口撃。IRV GOTTI 率いる THE INC(JA RULE など)をディスりまくり、CAM'RON や JIM JONES ら DIPSET クルー、FAT JOE の TERROR SQUAD にも挑戦。NAS & KELIS 夫妻にもケンカをふっかけてきた。仲間内であった THE GAME との内紛も有名で、実に戦闘的な連中だ。かつては NAS との共演もあった MOBB DEEP は敢えて G の軍門に下り、NAS との関係を絶った。次なる抗争の始まりだ。「HIP HOP IS DEAD」では既に THE GAME をゲストに呼んでる戦略家の NAS。ヒップホップゲームは、常に下克上、盛者必衰の世界。その中で長年サヴァイブするのは実力と戦略。NAS は今年 DEF JAM からの第二弾アルバムを準備。ヒップホップはまだ死んでない。

●ウチの息子ノマドが「オレってオンナのコに人気があるんだよ」と最近錯覚気味なのは前にも書いたが、イモウトヒヨコまでが「ヒヨコ、オトコのコにモテルみたい」と言い出した。何じゃそりゃ。
●「このまえ、00くんがオトナリにすわりたいっていってきた」とか、それぞれは非常にミクロな出来事なんだけど、一丁前にオトコのコを意識しだしたのであろう。「このまえはね、リクくんがいっしょにおサンポいこうっていってくれたんだよ」ほほう、やるじゃないかヒヨコ。どんな時にリクくんお散歩に誘ってくれたの?「ヒヨコがね、モルモットちゃんになってあそんでたトキ」……それは、お散歩デートではなく、愛玩動物を散歩に連れて行く感覚なのでは?ヒヨコ、それでオマエは四つん這いで散歩したの?
●さてと、今日もN.Y.の天才ラッパー NAS のキャリアについて書いちゃいます。
●前回(6月22日)の記事では、1st から5th まで5枚のアルバム、1994〜2001年までの NASくんの動きを見てきました。N.Y. のドープなリリシズムを代表してシーンに登場した若き天才は、セカンド以降は、90年代後半風のメジャー路線に近寄りつつ、より存在感を持つに至る。しかし、N.Y.の覇権を巡って JAY-Z との確執も勃発。ビーフ合戦が過熱する。
●前回記事コメントに、ohguchi が「デビューしたてのころ、「NASを聴いてる」ってだけでちょっとインテリ気分になったりしてましたw 」と寄せてくれました。そうだそうだ、NAS ってアタマ良さげなヒップホップエリートな感じがあったんだよねー。うんうん。スゴく共感できるコメント。1994年当時はそういう雰囲気だったんだ。
●そんで時代は2002年。
●1996年以降から時流となった PUFF DADDY の THE HITMEN や TRACKMASTERS などなどのメジャー系プロデューサーの時代は微妙に変質し、もっと斬新な感覚でヒップホップを解釈する新しいトラックメイカーが数々登場した。そして耳の早い PUFF DADDY(このころは P.DIDDY に改名した頃かな)や JAY-Z のような経営感覚の鋭いヒップホップ起業家の手でどんどんフックアップされた。
●この頃シーンに躍り出たトラックメイカーといえば、THE NEPTUNES、KANYE WEST、JUST BLAZE、SCOTT STORCH、SWIZZ BEATZ、9TH WONDER、WILL.I.AM、RICH HARRISON、LIL JON……。枚挙に暇がない。そして、重要はポイントは、彼らの過激なビート実験が、ヒップホップゲームの最先端、ビルボードチャートの頂点で行われていたことだ。彼らは自分たちの先鋭的トラックを商業的成功と両立させたのだ。ボク個人の造語としてこの世代を「00年代スクール」と呼んでおく。この段階でヒップホップはアングラカルチャーではなくアメリカのポップソングのど真ん中に来てしまったわけだ。…その一方でアンダーグラウンドな動きがなかった訳じゃないんだけど、その話はまた別の機会に。
●神の子、NAS。参謀に SALAAM REMI を迎える。
![]() | God's Son (2002/12/17) Nas 商品詳細を見る |
●「GOD'S SON」2002年
●「神の子」ってのも極端なタイトルだよねえ。ナズくん相変わらず。オナカに「GOD'S SON」ってタトゥーを前から入れてるんだって。ま、それはおいといて。
●NAS はこのアルバムからスゴくファンキーになった!すいません、こんだけ評価の定まったアーティストにボクなぞがケチつけるのは暴論もイイとこなんだけど、敢えて言わせてもらうと、NAS の今までのラップは固いんですよ。スキルが高過ぎて、言葉の密度感がスゴい。言葉の運び選び韻の踏み方は、英語を解さずとも伝わってくる。でも、もはや早口言葉級のスピードでまき散らされるライムは、時としてトラックから乖離して剥がれちゃうような感じがしてた。トラックのグルーヴを無視して早口言葉に没入してる感じ?初期のトラックはストイックで研ぎすましたループで遊びの余地がない。メジャー期のトラックも大味な部分が NAS のラップとシックリあってないような気がしてた。
●しかし、「ザ・カメレオン」の異名を持つ男 SALAAM REMI が組むトラックにはファンキーな生々しさがあり、NAS のラップをウマく立たせるような細かいブレイクがフロウ一つ一つに合わせて散りばめられてる。NAS は NAS で、そのトラックをウマく利用して自分のグルーヴを制御し、時にスキマを作り、時にテンポを落とし、メロディをつけたりして、緩急をつけたフロウを見せてくれる。結果、ボクが言いたいのは、このアルバムは傑作だ!
●この SALAAM REMI が3分の1以上のトラックを提供。白い悪鬼 EMINEM も彼特有のシンプルでそのシンプルさがそのままダークな狂気に聴こえるトラックを一つ提供。客演陣は、弟のグループ BRAVEHEARTS、奥さんの KELIS。ALISIA KEYS との共演曲「WORRIOR SONG」は彼女自身の作曲。意外なほどタフなトラックだぜ。で彼女のコーラスも実にタフ。ALISIA 見直した。ベートーベン「エリーゼのために」の大ネタ使いはご愛嬌?ヒットしちゃったらしいけど。
●そして聴き所は 2PAC の遺作音源で構成した疑似デュエット「THUGZ MANSION (N.Y.)」。つーか 2PAC の既存曲「THUGZ MANSION」をリミックスしたようなモノかな。メランコリックなアコギだけで組まれたトラックは耳に爽やかで、J.PHOENIX なる人物のコーラスも淡く響く。感涙モノ。
●ちなみに、内ジャケにはこの年がんで亡くなった実のお母さんの写真が。とっても美人さん。R.I.P.。ブラックパンサー党のマネっこもしてます。
●ところで、JAY-Z とのビーフはどうなったって?
●執拗な JAY-Z の口撃に対して、NAS は粋なやり方で決着をつけた。このアルバム収録曲「LAST REAL NIGGA ALIVE」で、自分と JAY-Z を映画「スカーフェイス」(監督:ブライアン・デ・パルマ、主演:アル・パチーノ)の登場人物になぞらえ、この名画に敬意を表しつつこの抗争を表現した。キューバからの不法滞在者トニー・モンタナが、コカイン密輸で巨大なギャング組織を作り栄華を極めつつも、最後には壮絶な最後を遂げるこの映画。ヒップホップの生き様を象徴してるが故に、黒人さんにはカルト的な支持を持つこの作品、絶対見ないとダメよ。この鮮やかな表現が功を奏したのか、この後ビーフは沈静化していく。
![]() | スカーフェイス ― コレクターズ・エディション (2002/04/19) アル・パチーノ 商品詳細を見る |
●2枚組の NAS。ファンクが濃くて胃もたれ寸前。
![]() | Street's Disciple (2004/11/29) Nas 商品詳細を見る |
●「STREET'S DISCIPLE」2004年
●「STREET'S DISCIPLE(訳して『路上の使徒』)」。このフレーズは、NAS のキャリアの原点になった客演曲 MAIN SOURCE「LIVE AT B.B.Q.」で彼が最初に放った言葉。「ダ・ヴィンチ・コード」で有名になった「最後の晩餐」を連想させるジャケ。本来質素なあの絵に比べてシャンパンの数が多過ぎますが。カミサマ志向強過ぎなんですけど。で、さすがに二枚組。聴くのにも気合いが入ります。
●で、イキナリですが、ビートがファット過ぎます。基本は SALAAM REMI、そして前作ではハブにされてた L.E.S. が EXEC.PROD にクレジットされて、ウンとブットいビートをカマしてきます。イントロ明け一曲目の L.E.S.、2曲目の SALAAM REMI 制作曲ですでに血中ファンク濃度が脳溢血寸前まで高まります。NAS のラップもビートにウマく寄り添い実にファンクに機能します。
●でもまず最初の聴きドコロは Q-TIP (ex. A TRIBE CALLED QUEST)制作の「AMERICAN WAY」。コーラスは「サンダービッチ」 の異名を持つ NAS の奥さん KELIS。ファ〜ンク。ブットい四ツ打ちのデカい柱の間をクールにすり抜ける NAS のマイク捌き。ダルなコーラスがファンクなシズル感を4割増。
●L.E.S. が腕を上げてるんだよな〜。「DICIPLE」も分かり易いアクセントと、プロレスラーがマットの感触を確かめるように受け身をとってみせるような、ドカッドカッとしたビートを組んでくる。そんなんで8曲も担当してる。「REST OF MY LIFE」では変則ビートで微妙なツッカえ感を演出しつつ AMERIE をコーラスに召喚。CHIC 使いのヒットシングル「JUST A MOMENT」はボク的にはまあまあ…。でも一枚目を締めくくる「REASON」、2枚目を締めくくる「ME & YOU (DEDICATED TO DESTINY)」は湿り気タップリの女性ボーカルのフィーチャーでネットリグッドです。
●ほんで、本命はやっぱ SALAAM REMI ですわ。さすが「ザ・カメレオン」、変幻自在のテクニックで様々なアイディアを繰り出してくる。「SEKOU STORY」はオーソドックスな高速ヒップホップと思いきや、途中でイキナリテンポダウンして JB一派のファンク猛女 LYN COLLINS(名曲「ROCK ME AGAIN AND AGAIN AND AGAIN AND AGAIN AND AGAIN AND AGAIN」!)のサンプルでねちっこいR&Bに変貌する。アルバムタイトル曲「STREET'S DISCIPLE」ではチェロ生弾きループの不協和音でアタマが揺さぶられる。「VIRGO」ではみんなダイスキ HUMAN BEAT BOXIN' の人気者 DOUG E. FRESH がブッ!ブッ!ブッ!と味のあるビートをマイクに吹き込んでます〜。スピーカーからダグのツバが吹き出てきそうなロウな録音。「NO ONE ELSE IN THE ROOM」は MAXWELL の透明感ある高音コーラスを翼にして飛翔するハイテンポファンク。THE HITMEN 関係者 CHUCKY THOMPSON(今回この人なにげに6曲も関与してます)とともに完全ヒップホップバンド仕様で構成。続く「BRIDGING THE GAP」は NASパパの OLU DARA さんが全面参加、泥臭いブルースのニオイがプンプンするハーモニカやトランペット、リードギターまで弾いてる。オッサン臭いラップもしてるかな?やっぱ SALAAM REMI は全部自分でドラム、ベース、ギターなど大方の楽器を演奏できるし、バンド(ホーン隊からクラリネット、フルート、チェロまで)をコーディネートして生ファンクでトラックを作るのが強いよね。それだけ表現の幅も広いし、とにかくファンキー。このアルバムでますますSALAAM のファンになっちゃった。
●そんでその SALAAM にサンプラーの使い方を教えてもらった NAS 自身も2曲制作。BASTA RHYMES を連れてきた二枚目のドアタマ「SUICIDE BOUNCE」は自殺寸前の緊張感をオーケストラのサンプルで煽りながら高速でラップするクールな逸品。鮮やかだわ。もう一曲は敬愛する伝説のN.Y.ラッパー RAKIM の伝記を勝手にラップする「U.B.R.(UNAUTHORIZED BIOGRAPHY OF RAKIM)」。硬質でストイックなビート作り。
●でさあ、結局JAY-Z とのビーフはどー決着したわけよ?
●JAY-Z はしばしば引退発言して業界を驚かすオトコなのは皆さんご承知ですが、一番本格的な引退宣言だった2003年「THE BLACK ALBUM」のリリースの後(この後 JAY-Z は確かに客演はすれど自分名義のリリースは2006年までしなかった)、一気に態度が軟化し(半ば隠居気分?)インタビューでも NAS への敬意を表する発言をするようになった。NAS も同様で、お互いが批評しあい切磋琢磨し商業的成功へと助け合うべきだという論調ができた。1996〜1997年、2PAC と THE NOTORIOUS B.I.G. が相次いで殺された悲劇のビーフと違い、ある種のプロモーション手段としてのビーフという認識が今の業界の常識になった。
●おいおい、ちょっと待てよ、ビーフはデキ勝負の宣伝戦略かよ?…とお思いの方もいるかもしれない。でもプロレスってある意味「アングル」として勝負の道筋が決まってるじゃん。でもリングの上でカラダブツケ合ってんのはホンモノだよね。それと同じかな。自分のラップでケンカを売るのもイイが、ケンカを買う方も自分のラップでやり返しな!そこでギャングを使って殺し合うのはナシだっつーこと。プロレスラーや格闘家がリングの外で殺し合いしないでしょ(亀田兄弟はビミョー寸前だけど)。
●そんでですね、2005年、JAY-Z は「オレ様には誰一人好き勝手なコトは言わせないぜー!」とか言って客を煽ってたクセして、スペシャルゲストでステージに NAS を上げ、共演しちゃうのだ。コレにてこのビーフには終止符が正式に打たれた。
●おまけに商魂逞しい JAY-Z は当時自分がCEOを務めてた DEF JAM RECORDINGS に NAS を契約させる。なんと NAS の新譜は、5年ほどもいがみ合ったライバルのレーベルからリリースされることになったのだ。
●ヒップホップは死んだのかな?いや、アメリカが死んでいる。
![]() | Hip Hop Is Dead (2006/12/19) Nas 商品詳細を見る |
●「HIP HOP IS DEAD」2006年
●「ヒップホップは死んだ」。これまたセンセーショナルなタイトルだ。このタイトルを巡って様々な議論が起こった。英語版 WIKI にまた興味深い事が書いてある。NAS がとあるインタビューに答えた言葉だ。「...基本的にアメリカが死んでいる。コレは政治のハナシじゃない。音楽が死んでいる。オレたちの考え方が死んでいる。商売の仕方が死んでいる。この社会の中の全てで進行している。オレたちにとって国と言える場所で起こっている事だ…」
●「音楽が死んでいる」。コレに反応したのがサウス系のヒップホップの連中だ。NAS は要するにオレらのクランクやスナップ系のチープなビート感覚にケチをつけてるんだと。一方でN.Y.を中心に NAS を支援する声も。常に議論を呼ぶ男、NAS。
●とか言って、ヒップホップ最大のレーベル DEF JAM からのリリースということで、ぶっちゃけ内容はドメジャー路線の時代に逆戻りしたっぽい感触。L.E.S. や SALAAM REMI の存在感は後退して、00年代スクールのクリエイター、SCOTT STORCH、WILL.I.AM(BLACK EYED PEAS)、KANYE WEST、ノルウェー人トラックメイカー STARGATE などが投入されてる。あ、DR.DRE のオッサンも参加。うーむ金に糸目を付けない JAY-Z らしいやり方だ。そんでうとう長年の宿敵 JAY-Z と NAS の共演が果たされる。この曲「BLACK REPUBLICAN」、心なしか二人のラップも気合い入って聴こえます。
●さて、聴き所。SALAAM REMI にしっかり心を奪われたボクは、彼と NAS の共同制作「WHERE ARE THEY NOW」にまずシビレル。JAMES BROWN のファンクビートを骨格に使ったミドルスクール風味とも言えるスピード感溢れるトラックに腰が動く。
●表題曲「HIP HOP IS DEAD」は WILL.I.AM の制作。BLACK EYED PEAS で確立されてるクロスオーバー的なヒップホップ感覚(ロック感もあればファンク感も兼ね揃えるダンスミュージック)を大々的に導入。DEF JAM の秘蔵ッ娘 CHRISETTE MICHELE をフィーチャーした「CAN'T FORGET ABOUT YOU」ではなんと NAT KING COLE の激有名曲「UNFORGETTABLE」の大ネタ使い。つーか、最後は NAT KING COLE がたった一人で朗々と歌ってますがな。ここだけ聴くとCD間違えたのかと思うわ。
●KANYE WEST もエエ仕事してまっせ。「STILL DREAMING」では自分でリードのヴァースを預かって、CHRISETTE MICHELE のクールなコーラスを温もり持たせて漂わす。「LET THERE BE LIGHT」では生ドラム採用でスネア捌きをホットにしたトラックに、TRE WILLIAM なる男性シンガーを招集して、男汁が滴り落ちるソウルチューンを編み出す。うーんたまらん。
●THE ROOTS のピアニストからトラックメイカーに転身した SCOTT STORCH、その手堅い仕事に人気も高いが、スンゲえアイディアのある人じゃない。提供曲「PLAY ON PLAYA」では客演に犬将軍 SNOOP DOGG をお招き。MARVIN GAYE をサンプルしたトラックと、この唯一無二のフロウを持つゲストで確かな逸品に仕上げました。
●一方、この時期には N.Y. に新たな勢力も台頭。50 CENT 率いる G-UNIT である。
●銃弾を全身に浴びながら生き残った元ドラッグディーラー 50 CENT は N.Y. に新しいマッチョイズムとギャングスタスタイルを導入、シーンの中心に躍り出た。LLOYD BANKS、TONY YAYO、YOUNG BUCK を舎弟にして、既存勢力を口撃。IRV GOTTI 率いる THE INC(JA RULE など)をディスりまくり、CAM'RON や JIM JONES ら DIPSET クルー、FAT JOE の TERROR SQUAD にも挑戦。NAS & KELIS 夫妻にもケンカをふっかけてきた。仲間内であった THE GAME との内紛も有名で、実に戦闘的な連中だ。かつては NAS との共演もあった MOBB DEEP は敢えて G の軍門に下り、NAS との関係を絶った。次なる抗争の始まりだ。「HIP HOP IS DEAD」では既に THE GAME をゲストに呼んでる戦略家の NAS。ヒップホップゲームは、常に下克上、盛者必衰の世界。その中で長年サヴァイブするのは実力と戦略。NAS は今年 DEF JAM からの第二弾アルバムを準備。ヒップホップはまだ死んでない。
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