少し前、ブルガリア映画を見たって話を書いたけど、今度はハンガリー映画を見た。

『人生に乾杯!』

「人生に乾杯!」2009年
ハンガリーって言われてもなあ、イメージわかないよ……。ボクはそう思った。しかしちょっと調べてみると、マイナーな東欧の内陸国と見えて、古くはローマ帝国の辺境植民地として拓かれ、アジア系のマジャール人などが流入したり、オーストリア・ハンガリー二重帝国として絶対王政ヨーロッパの覇権を列強と争ったりと、なかなか立派な歴史的トピックのある国。ソ連型共産主義から1989年に体制変換し、2004年には EU加盟も果たした東欧の「優等生」。しかし今では高いインフレと失業率で経済が混乱している…。そんなご時世を受けた物語がこの映画だ。

●共産党時代の秘密警察だった若者が、捜索に踏み込んだ家の屋根裏に潜んでいた少女を発見。大きな靴音を鳴らして歩いてくる将校たちに対して、とっさに若者は職務を裏切り少女を匿ってしまう。そんな運命的な出会いをした男女………この二人の50年後が、この映画の主人公たちである。
●もう70歳を超えて立派なオジイちゃん&オバアちゃんになった二人は、慎ましやかな年金生活を送っている。しかし最近のインフレは年金生活者を苦しめる一方で、この老夫婦の家にも借金取りが毎日のように取り立てにやって来ていた。しかし、ある出来事がキッカケで、オジイちゃんは共産党時代に譲り受けたポンコツクラシックカーに乗り、拳銃を握って強盗を始めてしまうのだ。なにしろ相手が70歳オーバー(しかもギックリ腰気味)。銀行職員の女性も二重の意味で面食らうわ。「ワシもこんなコトは初めてなんじゃ、娘さん、黙って早く言う事を聞いておくれ」
●イマイチユルいテンションながら、意外とポンポン成功してしまう老人強盗。そしていつしかオバアちゃんも合流して、70歳オーバーの「俺たちに明日はない」な強盗ツアーが始まる。警察も必死の追跡を図るが、スレスレの所で追っ手をかいくぐるのは秘密警察の経験が役立っているのか?ハプニングで追跡者であるはずの女性刑事を看護してあげたりしながら、人生最後の大花火を打ち上げる二人。東欧独特の慎ましやかなテンションながら、どこかほのぼのしてしまうノリにニンマリ。本物の「俺たちに明日はない」の結末はご存知の通りホントに明日がなかったが、この二人の運命は?逃避行の行方は?
子供がいない老夫婦は、しかめっ面の晩年を迎え、お互いに悪態をつきながら地味な生活を送ってた。ソレが、オジイちゃんのムチャな暴走をキッカケに、昔のチャーミングな恋人の親近感を取り戻す。人生のエンディング近くを、ボクはどんな風に過ごしていたいか?出来ればワイフとニコニコしながら過ごしてたいモンだ。そんな気持ちに素朴になれる、ジワリ系の映画でした。



●この映画に、宣伝ソングなるモノがある。「人生に乾杯を!」というウタだ。

コーヒーカラー「人生に乾杯を~別れの歌~」

コーヒーカラー「人生に乾杯を!~別れの曲~」2009年
●この曲は、実はとても不思議な曲だ。シングルとしてリリースされるのがもうコレで三回目なのだ。こういうコトって他にあるかなあ? 歌う人が変わるわけじゃない、単純に再発されるんじゃない、微妙にアレンジを変えてリリースしてくるのだ。この曲によっぼどの愛着があるのか、それともどこかで需要が発生しているのか?
●最初のリリースは2004年。二回目は2005年に「元祖 人生に乾杯を!」としてリリース。「元祖」って? そんで三回目の今年、「人生に乾杯を!~別れの曲~」。「別れの曲」ってなんだろう?歌詞はとくに変わってないけど。
●一時期「じわじわヒット」という言葉があったが、5年にも及ぶロングセラーともなると、「じわじわじわじわじわじわ」級だね。しかし「ヒット」とは言い兼ねる感じ。爆発的なセールスに結びついているわけでもないんだよね。だってこのCDがレコ屋に平積みされてるなんて見た事ないでしょ。テレビやCMでよく聴くわけでもないし。ただナニを思ったか、「ゆうせん」だけでは現象が現れている。リーマンショック&世界金融危機以降、「ゆうせん」にリクエストする人が増え、なんと今年上半期リクエストランキング1位になってしまった。ビックリだ。多分本人ですらビックリしているだろう。

●この曲は、シンガー兼ライターの仲山卯月が、自分のサラリーマン時代(&リストラ直撃経験)を振り返って書いた、サラリーマン応援歌。ボクは、一回目のリリースの時から注目してたんですよ。いやいや自慢じゃなくて。インディーズのコーヒーカラーは(つーか実は今でもだと思うけど)、天然なのか計算なのか、クソマジメな顔して超マヌケなウタを歌うユニットで、クスクス笑っちゃう系のアーティストだったのですよ。彼らのレパートリーには「OH ! 米家族」という曲があって、仲山ジェームスブラウンばりの熱唱でコメの偉大さを叫ぶ奇形のR&Bなんです。キャッチコピーは「人間関係にハラペコな時代に歌って踊れ!」…どこまでマジかワカランでしょ。

コーヒーカラー「OH ! 米家族」 コーヒーカラー「OH ! 米家族」2007年

●ボクはそんな側面から興味を持ったんだけど、1曲だけ、1曲だけ、ド直球でシリアスな曲がある。それが「人生に乾杯を!」だった。フザケた曲の中にポツンと存在するこの実に真っ当な作品は、奇妙にココロに残った。カイシャの会議が脱線して、ボクがこの曲をその場にいた全員に聴かせた所、当時の大上司(20歳くらい年上、ろくに口も利いたことがなかった)が「おいオマエ、このCDくれ!」と言ってきたのを、不思議な体験として記憶している。この大上司はホントにカラオケの十八番にしてしまったし、年長のオジさん上司が次々にハマっていく瞬間を他にも目撃した。一時期、ボクはなぜかこの曲のボランティアなプロモーターになってた気がする。「あのCDくれ!」って何回言われたか。
●確かにボク自身もこの曲のリリックは大好きだ。特にリーマンショックで荒廃したサラリーマンのハートには刺さるものがあるに違いない。一部ご紹介。


別れの時は 近づいてる 抜け殻みたいな太陽 抱きしめて
見飽きたこの街で 杯を交わす 勝ち組 負け組 人によっては 色々あるけど

つまらない区別や劣等感も ごちゃまぜに とにかく歩いた月日
俺たちはそうさ トムソーヤじゃないか 無限のネオンに 漕ぎ出していく

ああ いつの間に 流れ行く毎日が雲のように 風のように 鳥のように 飛んでいく

あなたに乾杯しよう 乾杯しよう 乾杯しよう 戸惑いを 飲み干して また一つ酔えばいい
別れの悲しみを 寂しさを 切なさを 背負うたび 人は皆 人生に慣れていく



●ボクが好きなのは、「俺たちはそうさ トムソーヤじゃないか 無限のネオンに 漕ぎ出していく」ってフレーズ。ミシシッピ川じゃなくて、この21世紀の東京で、ボクらは少々無理メでビターな冒険をしている。やりたくてやる冒険じゃないかも知れないけど。それでも男の子は(女の子も)前に進むのだ。
●そんで最近の仲山卯月は、街の盛り場で「流し」まで始めてしまった。この人天然なんだなー。計算でシニカルなギャグを作るタイプじゃなくて、マジで作ってた曲がどうしてもマヌケになってしまうタイプ。それが奇跡かマグレか世間の感覚とピッタリと会ってしまったのが「人生に乾杯を!」なんだろう。ほんでそんなマグレは二度と起こらず、このウタをズーッと歌うことを覚悟したんだろう。

仲山卯月さん(流し。)


●それと、ネットで検索してたら、この曲についてマレーシアからの留学生さん21歳がいたく感動した旨をブログに綴ってた。その一文も引用。この曲の哀感は、外国人にも響くメンタリティなんだな。

This is a very touching song I will like to share with you. The story behind this song has motivated me to the fullest. I wonder when can I cheer aloud if I were to do my very best from now onwards. Its very popular among the salarymen in Japan today.

これは非常に感動的な歌です。是非あなたと共有したい。この歌が描く物語は、十分に私を勇気づけてくれました。私が前に向かってベストを尽くそうという時、私は大きな声で乾杯ができるのだろうかと思いました。現代日本のサラリーマンの間でとても人気を集めています。



●細い縁だけど、関連アーティストの音源を。
コーヒーカラー「人生に乾杯を!~別れの曲~」にはサポートミュージシャンとして、PE'Z のメンバー三人が参加している。トランペット OHYAMA、サックス KADOTA、ドラム。パワー押しのジャズ侍には意外な仕事だわ。

PEZ「PEZ REALIVE 2007 - 起きて寝る - @2007.4.14 日比谷野外大音楽堂」

PE'Z「PE'Z REALIVE 2007 - 起きて寝る - @2007.4.14 日比谷野外大音楽堂」2007年
●このDVDは、二枚組の大型アルバム「起きて寝る -FUNNY DAY & HARD NIGHT-」を受けてのツアーを収録したモノだと思う。PE'Z のライブはいつも楽しい。演奏はもちろんだが、衣装だってイイ。特殊な和柄センスがクール。センター OHYAMA さんなんて雪駄履きだし、服は忍者の黒装束のようにも見える。キザキャラでいじくられてるサックス KADOTA さんはいつもロングコートを翻してる。今回は胸に赤い鳥の羽根?を差してる。スキンヘッドのさんは、ノースリーブなタイトシャツでマッチョな孫悟空みたい。年齢も一番上だし見た目は怖いけど、実はイチバンチャーミングな人だってのが長年観てきての感想。
●でもやっぱ、イチバン目を引くのはマッドピアノ、ヒイズミマサユ機。メタメタに使い込んだ KORG のシンセピアノを叩き壊すかの勢いでプレイする。遠目に見ると両手の10本指をデタラメに鍵盤に撫で付けているかのように見えて、ドラマチックな即興を弾き出す。しかもまるで踊ってるかのように楽器の前で跳ね回ったり、カオを鍵盤に突っ込むかの勢いでピアノにノメり込んだりと、マジで見飽きない。あんな風にピアノが弾けたらなーと素朴に憧れちゃうなあ。
●そんな風にボクが思ってるんですから、PE'Z のコアな女性ファンは彼が大好き。黄色い声で「ヒーくん!ヒーくん!」OHYAMA さんの MC ではモテモテぶりが説明されてる。「スゴいんですよ、オンナのモテ方が。普通ですよ、メンバー5人いれば、マサユ機が一番モテたとしても、5:2:2:1:0くらいじゃないすか?ソレが、10:0なんすよ!」モテモテ男、サングラスの下でいつも眠たそうな瞳がニンマリ。普段は無表情でツカミドコロのない彼がハニカムように笑うと、実年齢よりもずっと若く見える容姿もあって、スゴくカワイく見えるに違いない。


H ZETT M「PIANOHEAD」

H ZETT M「PIANOHEAD」2008年
●そんなヒイズミマサユ機氏のソロ名義ユニットが、H ZETT M。この名義ではセカンドアルバムになります。ジャケからマッドな気分全開で、ある意味でついて行けません。カオは白塗り、ハナだけ青くして、目ん玉のマワリだけをゴスばりに黒く塗る。シルクハットに黒いロングジャケット。「不思議の国のアリス」のマッドハッターが実在したらこんな風になるのかも。
●そんなヴィジュアルに気圧されてるのに、楽曲の一つ一つも、どこかバラバラにほつれてる(または未完成)のにそんなコトおかまいなしで放電しまくってるテンションで突っ走ってて、実に耳にはビリビリ強く響く。どこかチープなリズムトラック、モゴモゴしててナニ言ってんだか分からないボーカル、でも過剰に盛り込まれたピアノの音の横殴りの雨。
「ダイキライ」HIRO:N という女性とデュエットするエレクトロダンス。どこかタダレたユルいグルーヴと一瞬チラつく歌謡曲メロディが、チープながらもダークに光って一番キャッチーに思えた。



PEZMOKU「ギャロップ」

PEZMOKU「蒼白い街」

PE'ZMOKU「ギャロップ」2008年
PE'ZMOKU「蒼白い街」2008年
●インストジャズというフォーマットで勝負してきた PE'Z がボーカリストを迎えて音源を初めてリリースしたのは、2006年、UK ソウルのシンガー NATE JAMES とのコラボ「LIVE FOR THE GROOVE E.P.」の時だ。コレが実にナイスなシングル!タイトル曲はキャッチーなR&B、そしてカップリングが炎のディープファンクという構成で、彼らの持ち味をよく活かした傑作なのです。PE'Z、この瞬間に大進化!

LIVE FOR THE GROOVE E.P. PE'Z × NATE JAMES「LIVE FOR THE GROOVE E.P.」

●そこの勢いに乗ったのか、今度はオルタナフォークシンガーの SUZUMOKU という男をシンガーに据えて、合体ユニット PE'ZMOKU が誕生した。「トンガっていこうぜ!」というメッセージはいいんだけど、あの真っ赤なトンガリ帽子&赤い覆面はサスガに失笑しました。ジャケでもトンガリ続けてます。
●ボクは、この SUZUMOKU さんという人物はココで初めて知ったので、彼のソロ音源というのは聴いたことがない。ただし、オルタナフォーク+サムライジャズという結合は、思った以上にうまく機能していて、NATE JAMES のような黒いファンキーには安易に走らずに、しかし PE'Z 本来が持つ全員野球的な性質、プレイヤー全てがドーッと前に出て聴くモノにプレッシャーをかける攻撃スタイルは丸まってない。SUZUMOKU は時にスキャットでホーン隊と共にメロディをグングンなぞってみたりして、フォークというカテゴリーから自由に飛び出し、バンドと絶妙なケミストリーを起こしている。実に楽しい。
●……その一方で、このユニットにはちょっとした事件も。さあ、PE'ZMOKU としてのツアーを始めようという瞬間に、突然シンガーの SUZUMOKU が失踪しちゃったのだ。3月に始まる全国ツアーの直前で突然連絡が取れなくなり、二週間後に鹿児島の徳之島で発見される、そんで本人全くその間の記憶を失ってる…。なんかスゴいね。詳しくはオフィシャルサイトを見てね。今は体勢を立て直して再スタートしてるので心配してません。現在はアルバム「ペズモク大作戦」もリリースされているんだけど、それはまだ未聴。早くゲットしたい。
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