「トカゲ丸が死んでしまいました!」

●先々週のコトです。ウチのコドモの公開授業がありました。授業参観のコトを最近は「公開授業」というのです。定められた一週間の間、好きなタイミングで学校を訪れ、子供の様子を見てイイとされるのであります。ソコで我々親たちは授業だけでなく、給食から休み時間まで子供たちのあらゆる場面をのぞくコトができるのです。
●その日、ワイフは息子ノマド4年生の帰りの会を見物しておりました。たまたまこの日の日直はノマド。帰りの会はノマドが進行するのです。ノマド「係の人からなにかありますか?」ノマドが呼びかけてる。「ありますか?!」敢えてもう一度。誰かを急かしている様子。ナニかを言わせようとしているらしい…。「ありますか!」
「はい…。」オズオズと挙手したのは、ノマドと共にいきものがかりを担当しているユータ&ケン。二人は教室の前に出てきてノマドの横に立ちました。段取りを打合せしていた様子、ノマドを含めた三人で、声をそろえて発表を始めました。「いきものがかりからお知らせがあります。トカゲ丸が死んでしまいました!」えーっ!ざわざわ。「ですので…」えーとえーと、次の言葉が続かない…。「ですので、月曜日にはミンナでお祈りしてください!」えーっ!


トカゲ丸は、四月のアタマに小学校のビオトープで捕獲されたカナへビだった。
●野生動物の登場に、クラスのみんながトカゲ丸に夢中になった。クラスの男子のほとんどがいきものがかりに就任。誰もが世話を焼きたがった。とりわけウチの息子ノマドはトカゲ丸を可愛がり、週末の学校に放置はできないと主張して水槽ごとトカゲ丸を我が家に持ち帰るほどだった。もちろんゴールデンウィークの連休もトカゲ丸は我が家に滞在した。生き餌しか食べないというカナヘビの食糧供給にもノマドはせっせと尽力。朝早く起きてはウチの狭い庭を捜索して小さい昆虫を捕まえ、ボクの実家と連動してアブラムシがミッシリくっついた雑草をむしったりしてた。しかしワイフは爬虫類の闖入にドン引き。トカゲ丸に補食されたくないアブラムシが水槽の小さい穴から我が家のカベに大脱走を始めた時には卒倒寸前まで行ってた。
●しかし子供はとかく飽きやすい生き物。連休明けにトカゲ丸ブームは過ぎ去り、誰もがトカゲへの熱狂を忘れてしまった。それでもノマドはせっせと毎週末トカゲ丸の水槽を我が家に持ち帰り、ジグモやアブラムシを庭で捕まえてはトカゲ丸に与えていた。トカゲ丸は、どうやらトカゲの中でも実におっとりした性格で、ノマドがテノヒラに乗せても逃げることもない。夕方4時になるとお気に入りの場所にスッとしゃがみ込んでくーくー眠る習慣がある。爬虫類にドン引きだったワイフもこのボクも5月半ばのこの頃には大分トカゲ丸に愛着を感じ始めていた。


トカゲを巡るトラブル。
●5月後半のある日。トカゲブームが突如再燃した。第二のトカゲが発見されたのだ。命名・はくりゅう王トカゲ丸よりも大きくて、トカゲ丸よりもワイルド。トカゲ丸と顔を突き合わせさせたら、即座にガブリとアタマにかじりついた。トカゲ丸、完全劣勢。はくりゅう王中心のブームがクラスに巻き起こった。それでもマイペースにトカゲ丸をせっせと世話するノマド。…ノマドは一度ハマると少々視野狭窄気味になるオトコだ。実はこの段階でトカゲを巡ってクラスにトラブルが起きつつあったのにまるで気づいてなかった。
そのトラブルが表面化したのが、第三のトカゲ・シャドーの発見の時であった。哀れなシャドーはクラスの男子のイサカイに巻き込まれ、校舎の三階の窓から放り投げられてしまった。なぜそんな残酷なコトが?実はクラスの中に、トカゲに触れるグループと、トカゲから遠ざけられたグループの対立が生じていたのだ。しかし第三のトカゲ・シャドーは、トカゲから遠ざけられたグループの子が発見。これに対して既得権益を守ろうとしたトカゲに触れるグループが圧力をかける。結果、シャドーは窓から投げ捨てられるコトになったのだ。ノマドおまえその時ナニやってたんだ?「オレは別の教室にいたから全然しらなかったんだよー!教室もどったら、シャドーがいないんだ。だけど誰も教えてくれなかったんだよー」そんでシャドーはどうなったんだ?「わかんないよ…でも、きっと生きてるよ…」
●当然、この事態を知った先生は激怒。こんなことならトカゲたちをみなビオトープに放すと判断した。クラス一同しょぼーん。突如トカゲ丸とお別れするコトになったノマド。落胆激しい表情で家に帰ってきた。トカゲ丸の水槽を大切に抱え持って。

その日の夜。トカゲ丸との最後の一晩。
●明日のリリースに向けて、最後の一夜を過ごすコトを先生は許してくれた。リビングにねっころがって黙り込むノマド。ショックに打ちひしがれるといつもコイツはこうなる。手のひらの上にはトカゲ丸。水槽からトカゲ丸を出して腕に乗せているのだ。ワイフはいつトカゲ丸がノマドの手をすり抜け家具の裏に走り去るかと内心ドキドキ。しかし傷心のノマドを慮って声をかけられない。しかし本当にオトナシいトカゲ丸は夕方の眠気に我慢できずノンキにウトウトしてて逃げもしない。トカゲ丸を優しく優しく撫で続けるノマド。ふとナニか思うことがあったのか、自分のデジカメを取り出して、トカゲ丸の記念撮影を始めた。「本来暮らしていた故郷のビオトープに帰るコトは、それはそれでトカゲ丸にとっては良いコトだろう」ノマドは考え抜いた上でそう結論したらしく、比較的サッパリした顔で、翌日学校に出ていった。

お別れのトカゲ丸

(ノマドが手の上で撮影した、ウトウトネボケ気味のトカゲ丸。)


さて、その数日後。我が家に、はくりゅう王がやってきた。
●6月アタマのある日。会社から帰ってきたボクがリビングに見つけたのは、見慣れない水槽。お?コレナニ?トカゲ丸じゃないのか?ノマド「うん、コレ、はくりゅう王。」へー。「これからは、ずーっとウチにいるコトになった」へ?
●トカゲはみんなビオトープに帰したんじゃなかったの?ノマド「チガウ。大事にするコトを約束してウチに持ち帰るコトになったの」ほー。先生はスグにビオトープへトカゲを戻すのではなく、少々の猶予を持たせて子供たちの意見を聞いていたらしい。トラブルを起こした子供たちは謝罪をしたし、トカゲはキチンと引き取る子が名乗り出るまでクラスに据え置かれていたのだ。
●でもノマド、どうせならはくりゅう王じゃなくてトカゲ丸を連れてくればよかったじゃないか。ノマドがかわいがってたのはトカゲ丸だろう。トカゲ丸ユータが持ってった」いきものがかりのリーダーで、ノマドの親友ユータトカゲ丸を引き取った。ノマドとしては親友ユータならトカゲ丸を安心して預けられると言う。一方ではくりゅう王、誰も引き取らなくてカワイソウだったんだ!」…そうはいうけどなあ、パパもママもトカゲ丸にやっと馴染んできたトコロだったからなあ、今から新しいトカゲが来てもなあ…と半分言いかけた瞬間、ノマド自身がとっても悲しい顔をした。そうだよねノマド自身が一番シミテるんだよね…ノマドがカワイソウと思ってはくりゅう王を連れてきたという判断は、いいコトだと思うよ。はくりゅう王をみんなでかわいがるか。

トカゲ丸とのお別れは意外と早く来た。
●それから一週間後のコトだった。ワイフからボクにメールが。「トカゲ丸がなくなりました。ノマドはユータくんちにお葬式に行きました」ありゃー!トカゲ丸死んじゃったのか。お葬式か…。パパも悲しいと思うとノマドに伝えてくれ、とワイフに返信。
●ワイフがユータくんのお母さんから聞き取ったコトによると。やはり生き餌の供給は都会暮らしの少年には難しく、ユータくんはトカゲ丸に食べ物を与えられなかったらしい。というか、結局食べ物の供給は4月から通してノマド以外クラスで誰1人成功したことがなかったのだ。ピント外れの子供はなんとカツオブシを水槽に放り込んでた。トカゲが海産物を食うだろうか?カツオブシまみれのトカゲ丸の水槽を掃除するのもノマドだった。でもユータくんも頑張ってた。環境の変化に動揺してたトカゲ丸の気配を敏感に察してた。トカゲ丸はノマドにしかナツカナイんだよ…」と言いながら、ノマドがよく着る黒いTシャツにわざわざ着替えて世話をしたりしてたらしい。しかし結局トカゲ丸はみるみるやせ衰えて、そのまま餓死してしまったのだ。トカゲ丸が死んているのを発見したユータくんは大号泣したという。
トカゲ丸死亡翌日の朝。ユータくん「ノマド、大事な話がある」トカゲ丸を死なせてしまった罪悪感にゲッソリしてしまった彼は、クラスの誰にもその事実を明かせなかった。しかし、ノマドが人一倍トカゲ丸を寵愛してたコトを十分理解していたので、コッソリと報告をしてくれたらしい。ノマド、ショックのあまり頭真っ白、その日の給食にナニ食べたか全然わからなかったという。
●学校が終わって、ユータくんちに急行したノマド。ヤツ自身の観察によると「ゲッソリやせてた。腸の中がからっぽだった。オナカがペラペラだった。」それでもナントカ蘇生を試みたらしい。「電気ショックをやってみた!脳や心臓に電気を通した」なんだそりゃ?あ実験教室でもらってきたカチンコのことか?アトからいきものがかりのもう1人の中心人物ケンくんも合流。結局トカゲ丸の復活はならず、ユータくんちの庭に埋葬をした。
●大事にするから、といって引き取ったトカゲ丸を、早々死なせてしまったコトに猛烈なバツの悪さを感じた3人のいきものがかりたち。しかしこの事実をこのまま秘密にするわけにはいかないと考えて、帰りの会でクラスのみんなに報告しようという結論に至った。発表内容も打合せて、どうして死んでしまったのか、どう弔ったのか、ちゃんと話そうというコトになったという。「お祈りしてください」は段取りにないフレーズで、緊張で話す内容がゼンブ抜けて思わず出た言葉だったらしい。生き物の最期を看取るというのは、やっぱり大変な体験である。


そんで我が家のはくりゅう王。
●おっとりした性格のトカゲ丸と違って、第二のトカゲはくりゅう王は非常にワイルドで神経質な性格。体つきは明らかにトカゲ丸よりシッカリしていて、人間に懐かず、ちょっとした物音にも激しく反応する。シッポが一度切れてしまった経験があるらしく、再生途中の継ぎ目がハッキリ見える。コレがヤクザもののスカーフェイスみたいな貫禄を醸し出してて「いくつもの修羅場をくぐり抜けてきたぜ」的な主張をしているようだった。
はくりゅう王の警戒心の強さを即座に嗅ぎ取ったノマドは、安心できる環境を提供するためにアレコレ工夫を始めた。水槽の中に小さな丸太を仕込んでやると、はくりゅう王はソコを決まりの寝床にしてスヤスヤ眠るようになった。「パパ、はくりゅう王が起きちゃうから、オンガクの音ちいさくして!」とボクが怒られる場面もあった。朝早く起きての生き餌探しもセッセと継続。ノマドが勝手にテカテカムシと命名した小さな甲虫(確かにテカテカした光沢を放つ虫でした)を10匹以上も水槽にブチ込んだりした。最初は警戒心ピリピリでソレらの獲物をジッと睨むだけのはくりゅう王だったが、どこかで安心できたのか、最近はバグバグムシャムシャとその食欲を見せつけるようになってきた。ノマドが土の中で発見したコガネムシの幼虫を与えると、はくりゅう王は夢中になってシャブリつく。一気に飲み込める大きさじゃナイのに、大切な宝物のように必死にアチコチへ運び歩き、必死にヨソモノに取られないようにしている様子を見ると、なかなかカワイイヤツだなーと思えてくるのだった。

しかし。はくりゅう王も…。
●トカゲを飼育するにあたっては、昼夜のメリハリをハッキリ認知させてあげる必要があるらしい。夜は薄暗い場所へ水槽を動かし、昼間はある程度の時間、日光浴をさせてやるのがルールだった。しかし。先週の金曜日は暑い日だった…暑過ぎる日だった。埼玉県では気温40度に達した場所もあったとな。コレがはくりゅう王の健康に大きなダメージを与えたようだった。
●その翌日の土曜日。いつものように生き餌を取って、水槽の中にノマドが放り込もうとした時。はくりゅう王が白いハラを晒して仰向けにひっくり返っていた。えっ?!はくりゅう王どうしたの?!すぐにノマドがはくりゅう王を元の姿勢に戻してやると、意識を取り戻してお気に入りの丸太にしがみついたらしい。「ママ、はくりゅう王の様子がオカシイ!意識はちゃんとあるみたいだけど…」ワイフは具合が悪いようならその場で水槽から解放してあげたらいいのではと提案したという。「うん…ちょっと様子をみる!」
●その後ワイフが買い物に出かけると、その出先にケイタイへノマドから連絡が。「たいへん!はくりゅう王が動かないよ!」再びペロリと白いハラを晒して仰向けになってしまったはくりゅう王は、今度はどんなに揺すぶっても動いてくれなかったという。「昨日までゲンキにテカテカムシを食べてたのに!幼虫をオモチャみたいにいじって遊んでたのに!」あー昨日の猛暑で熱中症になったのかも…ワイフはノマドにそう言った。
●ワイフが買い物を終えて家に戻ると、ダイニングテーブルがスゴいコトになっていた。ティッシュの上に動かなくなったはくりゅう王が寝かされ、そのカラダにドバドバと水が注がれていたのだ。結果テーブルはビシャビシャ。とにかく水分をカラダに与えれば、スポンジのようにふくらんで蘇生するのではないかとノマドは考えたのだ。みんながゴハンを食べるテーブルにトカゲの死骸を置くなんて…ワイフはまたクラクラ卒倒しそうになったが、ノマド自身は真剣そのもの、救急病院の医師のような険しい表情で、はくりゅう王が蘇るのをジッと待っていたという。

はくりゅう王の棺

(はくりゅう王の棺。保冷剤で冷やしている…。)

ボクが帰宅した時には、立派な棺が作られていた…。
●なんだこの十字架は?「偉大なる白龍王、ここに眠る」おおお?!ノマドこれナンだよ?はくりゅう王死んじゃったのかよ!「うん、死んだ」うそ!朝まで平気だっただろ?…しかしこの瞬間、ノマドはMXTVで再放送してる「らんま1/2」の録画見て大爆笑中。ボクはリモコンつかんで一時停止、おいおいノマドちょっと説明しろよ。「オレは最初、木から落っこったダケだと思ってた。でもトカゲは高いトコロから落ちても死なないから平気だと思ったんだ。そしたら仰向けになって死んじゃった」でも餓死じゃないよな。あんなにエサ食べてたからな。ノマド「おじいさんになって寿命で死んじゃったのかもしれないし、ビョウキになったのかもしれないし」ノマド、アニメの一時停止を解除して再びゲタゲタ。アレ~意外とアッサリしてるじゃないか。はくりゅう王が死んじゃったというのに。コドモってそういうモンなのか?
●あらら。せっかくはくりゅう王もこの家に馴染んできたのにな…そう思ってボクが棺の写真を撮影していると、ノマド「あ!トカゲ丸はいっぱい写真撮ってやったのに、はくりゅう王は生きてる時に写真撮ってなかった!もう少し警戒心が取れたらと思ってたのに!」そういう悔しがり方なのか?そっと棺を開けると、優しくティッシュに包まれたはくりゅう王が仰向けに寝かされていた。「あ、はくりゅう王の目玉がくぼんじゃってる!トカゲって死ぬと目玉がしぼんじゃうんだ!」ノマド、おまえその微妙に冷徹な観察分析ってトカゲ丸の時もそうだったのか?電気ショックとかアレコレ変なコトやったって言ってたもんな。

はくりゅう王の亡骸

(ご臨終。はくりゅう王の亡骸。)

そうは言っても。
●翌日、日曜日の朝。もはや主がいなくなった水槽が、トイレの前にちょこんと置かれていた。そこでノマドが床に顔をこすりつけている。声を押し殺して泣いているのだ。ワイフとボクが声をかけてやるが、ノマドは顔を上げない。毎朝起きたら庭でテカテカムシを取ってやるのがノマドの習慣だったのに、もうソレを食べてくれる相手がいない。カラッポの水槽。やっぱ悲しいよな。


「はくりゅう王が死んでしまいました」
●ノマドはいきものがかりとしての責任を果たすため、再び帰りの会で顛末報告をしたそうな。はくりゅう王が死んでしまいました。しかし、もうクラスのみんなはトカゲたちのコトは忘れてしまったらしい。「そのハナシ、この前ききました!」ちがうよ!この前はトカゲ丸で、今度ははくりゅう王なの!ノマドは自分なりにアレコレ説明したつもりだけど、誰も真剣に聞いてくれなかったようだ。親友のユータくんだけが我が家を訪ねてくれて、はくりゅう王の埋葬に立ち会ってくれた。ヒヨコが庭で育てているヒマワリのソバに、はくりゅう王は埋められた。はくりゅう王は土に帰って草花の栄養となるのだ。…わ、クサッ!死んでから埋葬まで4日程ハコの中に収められていた死体は、キツい腐臭を放っていた。ノマドのいきものがかりとしての使命はコレで終わった。生き物の最期を看取るというのは、大変な体験である。


都会に暮らす子供たちって、この程度の経験しかできないのです。マンションの共同生活では、コレ以上の生き物は飼えない。ただし、生き物が死ぬという経験は、そのチッポケさ、汚らしさ、腐臭のクサさ、気味の悪さ、そのゼンブをひっくるめて子供のウチに感じておかなければならないモノだと思う。コドモたちのいない場面でボクはワイフと何回か話し合った。トカゲたちはそんなに長生きしないだろう。でもノマドには死ぬトコロまでキチンと見せよう。トカゲ丸とはくりゅう王は、よくやってくれたと思う。ノマドにザラリとしたナニかをちゃんと擦り付けていってくれたのだから。ありがとう。


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