今日は、70~80年代UKダブから、00年代ダブステップへ繋がるおハナシ。
●イギリスにおける、ブラックミュージックの独自進化の流れをナゾってみようとするモノです。

●ボクには、基本的な史観として、白人文化と黒人文化の間の影響/受容/搾取といった緊張関係が20世紀のポップミュージックを豊かにしてきた、という認識に立ってまして。その具体的なケースを様々な音源を素材にして今までこのブログで自分なりの解釈を綴ってみました。
特にイギリスのシーンを眺める事は重要です。自分たちの社会の内部に黒人社会を抱えるアメリカと違って、イギリスは外来文化として黒人文化/黒人音楽を受け入れる社会だからです。それは結果、日本社会と同じポジションだというコトです。イギリスで起こった事は、日本でも起こるコトかもしれませんし、すでに起こっているのかもしれません。日本社会がどうやってロックンロール(はっぴいえんどからRCサクセションまで)やR&B(ドリカムから宇多田、JUJUまで)、ヒップホップ(いとうせいこうからスチャ、KREVAまで)を受容したか、というプロセスを眺める時に、イギリス人が同じコトをどのようにこなしていったか、知る事は意味があると考えています。そして、ソコには誤読誤解や失敗、歪曲や変容があり、だからこそ豊かな多様性と独自性が宿るという瞬間を知るコトが出来る。結果、ボクは日本のジェイポップの失敗も、ある意味で愛らしい多様性として受け止めるコトが出来る、と1人の音楽ファンとして考えているのです。

●これまでに綴ってみた関連記事をリンクしておきます。
「80年代末から現在まで、UKのブラックミュージックを一気に俯瞰する。」
 http://unimogroove.blog4.fc2.com/blog-entry-418.html
「1984年状況。MTV革命、英国の侵略、黒人&白人音楽の邂逅について。」
 http://unimogroove.blog4.fc2.com/blog-date-20090810.html
「80年代イギリス音楽を「ファンカラティーナ」という言葉で眺めてみる。」
 http://unimogroove.blog4.fc2.com/blog-entry-852.html
「ボクは「FREE SOUL」がダイキライ。でも許す(←ナニ様?)。」
 http://unimogroove.blog4.fc2.com/blog-entry-425.html
「トリップホップと UK ヒップホップの不思議。なんで正統派はイギリスに浸透しなかったのか?」
 http://unimogroove.blog4.fc2.com/blog-entry-608.html



●さて、長いムダ話のスタートです。シッパイするかも。




「プッ!」
●失礼。放屁。オシリからちょいとガスが。
●娘ヒヨコ。「パパの「サウンド」がきこえました」
●失礼。「サウンド」が漏れてしまいました。
●我が家では、ちょいとしたガスもれを「サウンド」と呼ぶのが流行ってます。
●息子ノマド。「すーって音させないヤツは「すテレオ」ね」
●じゃあモノラルはどんな音?5.1chサラウンドは?
●そんな話を夕食の時間に話してます。



●そんで、そのまま、音響のおハナシになったのね。UKダブ。


Rebel Vibrations [ボーナストラック6曲収録・解説付き・紙ジャケット仕様] (BRC90)

CREATION REBEL「REBEL VIBLATION」1979年
●ヒヨコが聴く。「パパ、重低音ってどんな音?ばびびび~ん!って感じ?」あーもっと低い音だね。「じゃあ、ばぼぼぼぼ~ん!」いやいやもっと低いね。「ぶぶぶぶ~ん!」もっと低いね。ちょっとこのCDの音聴いてみろよ。
●ということでプレイしましたのが、この音源。ダブです。UKダブです。粒立ちのイイスネアとハイハットと、深いエコーに滲むピアニカ、そしてクッキリとしたウネリを放つベース音!ヒヨコこれだよこのベース、ぶーぶぶぶーぶぶぶーぶぶ。ワイフ「もう夜なんだからうるさい音楽はやめてよ!」この音源は、UKダブの重鎮プロデューサー ADRIAN SHERWOOD がその後自分のレーベル ON-U SOUND を立ち上げる直前期にリリースしたモノ。UKダブとして傑作。何度も聴いてきた名譜です。

●ジャマイカ発祥のレゲエカルチャーは、70年代を経て技巧的にどんどん洗練されていきますが、ダブはその中から生まれた音響美学。レコーディングエンジニアの創意と電気的加工でエコー感覚や低音と高音のメリハリを極端に増幅する手法です。それがイギリスへ伝播することでさらに独自の進化を遂げまして、氷のような無機質的グルーヴと強烈な緊張感で、当時のニューウェーブサウンドやパンクシーン、そしてその後に続くクラブミュージックの系譜に巨大な影響を及ぼすに至ります。ヘンテコな比喩で言いますと、ジャマイカ本国のダブを「熱帯夜をチョッピリ快適にする結露タップリのクーラー」とすれば、UKダブ「血も凍る絶対零度の暗黒」です。南の島と北の島、音楽が聴かれる環境が違いますしその迫力の位置が違います。…そんな流れにおいて、この CREATION REBEL というバンドは、構造的には比較的オーセンティックなレゲエでありながらも、UKダブ独自の美学を見事に先取りした、とにかく大事な物件であります。



ADRIAN SHERWOOD ON-U SOUND は確かに先鋭的でアンダーグラウンド過ぎますが、もう少しメジャーなレベルでダブにトライした連中はまだいます。ロンドンパンクの爆心地、THE CLASH。

THE CLASH「SANDINISTA!」

●THE CLASH「SANDINISTA !」1980年
●当時は3枚組LPとしてリリースされた超大作。ボリューム満点、36曲収録されてます。タイトルは独裁者を失脚させて成立したニカラグアの社会主義政権の名前ですよね。パンクスとして世に出たはずの THE CLASH ですが、前作にあたるサードアルバム「LONDON CALLING」でその音楽性の幅がパンクの枠を逸脱していくコトが顕在化、この第四作目のアルバムではその超雑食性が炸裂しまくってます。ジャズ…ゴスペル…ロカビリー…R&B…。そしてレゲエ、ダブ、カリプソまでに到達してます。レコーディングの一部をジャマイカの名門スタジオ CHANNEL ONE で行ってたり、ジャマイカ人プロデューサー MIKEY DREAD を招いてたりと、その姿勢は本気そのもの。DUB や VERSION という言葉を使って、わざわざアルバム収録曲のダブヴァージョンを4曲も折込んだりまでしています。
●当時の日本のパンク雑誌を読んでみると、このアプローチは「難解」と受け止められたりしてて、何のつもりでこんなコトしてるのかよくワカラン?という反応が一般的だった気配が…ダブとしてのアプローチはワリとストレートですが、ダブの概念自体がまだ理解されてなかった時代だったということか?
●次のアルバム「COMBAT ROCK」1982年(名曲「ROCK THE CASBAH」を収録)でもレゲエやファンクへ果敢にトライする THE CLASH。このミクスチャー魂はスゴいね。それと、イギリスのロックシーンとレゲエの関わりとしては、2トーンスカ、の存在も忘れられないんだけど、ソレはまだ別の機会に。

THE CLASH「COMBAT ROCK」



●おハナシを、ADRIAN SHEWOOD ON-U SOUND に戻して。


ADRIAN SHERWOOD「ON-U SOUND CRASH - SLASH  MIX」

ADRIAN SHERWOOD「ON-U SOUND CRASH - SLASH & MIX」2005年
●1979年、ADRIAN SHERWOOD ON-U SOUND を立ち上げ、ココを拠点にイギリス独自のダブ表現を様々なアーティストと切り拓いていきます。このミックスCDは、その ON-U の長い歴史を分厚いカタログをブチ抜くように振り返る内容で迫力満点。プロデューサー/エンジニアでありリミキサーとしても大活躍の ADRIAN としては意外だがミックスCDはコレが初めてらしい…。
●収録されてるアーティストを眺めるだけで、UKダブ~ニューウェーブの歴史が鳥瞰できるようであります。NEW AGE STEPPERS と元 THE POP GROUP MARK STWART(←暗黒!)がたくさん出てくる。そして ON-U の看板アーティストたち… DUB SYNDICATE、AFRICAN HEAD CHARGE、PRINCE FAR ITACKHEAD もタマランなあ。もちろん CREATION REBEL も多数収録されてます。
●しかし、ここに含まれてるのはオーセンティックなレゲエチューンだけではありません。ON-U SOUND の最大の功績は、ダブによって発見された美学を、レゲエから切り離して純粋に抽出し、広く他のジャンルミュージックに応用できる手法として成熟させたことです。UKダブは、ダブではあるがレゲエではない。そういう状況を作った。それでいて、レベルミュージックとしての怒気孕むレゲエのスリルは、キチンと温存している。ソコがスゴい。

AFRICAN HEAD CHARGE「SHRUNKEN HEAD」

AFRICAN HEAD CHARGE「SHRUNKEN HEAD」1981~2003年
ON-U SOUND の代表選手によるベストアルバム。アフリカ太古のグルーヴと最新型のダブサウンドを結合させるというコンセプト、サイケデリック呪術が金属の装甲を身にまとってるかのような不気味な迫力があります。レゲエの中でもナイヤビンギのような特殊なビートに注目し、そしてソコから広がるイギリス独自のグルーヴ解釈が、ダブ様式に豊かな膨らみと強烈な鋭さを与えてくれていて、結果として実にユニークで実にUKダブらしい表現に着地しております。
AMERICAN HEAD CHARGE という名前ソックリなロックバンドがありますが、基本全然カンケイないのでお気を付けを。



90年代。ジャングル/ドラムンベース。イギリス黒人による独自フォーマットの開発。


ALPHA OMEGA「WORD OF MOUTH LP」

ALPHA OMEGA「WORD OF MOUTH LP」2005年
●コレは、実はシッパイした買い物であります。ON-U SOUND が成長していく80~90年代に、やはりUKダブシーンで活躍した2人組ユニット ALPHA & OMEGA という連中がおりまして。しかもこの片割れのベーシストは、CHRISTINE WOODBRIGDE という女性!そりゃもうスゴい面構えですよコワいですよ!
●でね、彼らの音楽が聴きたくて、このCDを買ったんです。そしたら…あれなんかコレ、全然UKダブっぽくないな。おかしいな?そんでもう一回ジャケを見ると…「ALPHA OMEGA」あ!「&」がナイ!「ALPHA & OMEGA」じゃない、「ALPHA OMEGA」という別人なんだ!ショック!結果として、これはアメリカ・サンフランシスコ産のドラムンベースなんです。高速ブレイクビーツにうねるベース、そして映画「キルビル」のヘンな日本語セリフをサンプルしたりしてて。ジャケも妙な和風だし。あらら。
●しかし、イインです!だってボクは90年代育ち、ドラムンベースは浴びる程よく聴いていた。個人的に一番クラブ遊びしてた時期とドラムンベースのシーンが重なっていたので、この手の音楽はある意味で非常に居心地がよいのです。青春です。

ALPHA  OMEGA(本家 ALPHA & OMEGA。)

●さて、そんなキッカケも交えて、敢えて今、このドラムンベースという音楽、そしてその初期の形態である、ジャングルという音楽について考えてみましょう。レゲエがイギリスに受容される流れにおいて、UKダブと同じくらい、いやそれ以上のインパクトを持った音楽が、ジャングル/ドラムンベースだとボクは思ってます。


「JUNGLE HIT VOLUME 2 1000 JUNGLE」

「JUNGLE HIT VOLUME 2 1000% JUNGLE」1994年
●イギリスにおけるレゲエの進化を考えるにあたって、80年代UKダブと同じくらい、イヤそれ以上かも知れない歴史的エポックが、90年代ジャングル/ドラムンベースだと思ってます。イギリス黒人が編み出した完全にオリジナルな音楽様式……ソレ以前までは黒人音楽はイギリスにとって必ず外来文化だった…60年代~70年代のロックアーティストが憧れたジャズ、R&B、ブルースそしてレゲエも全てが渡来物。しかしこのジャングル/ドラムンベースは完全にイギリスから発信されたスタイル。移民文化を社会の内部に抱き込んで、そこから育んだ音楽。
●人間のドラマーでは再現できない高速ブレイクビーツがスピード感を求める白人の心を掴み、大きく増幅されたベースが描く野太いグルーヴが黒人のハートを掴む。この絶妙な二重構造は素晴らしい発明でした。基礎としては打ち込みドラムと大きなベースとという、ダンスホールレゲエの構造が前提とされていて、そこにダブの音響実験の成果が盛り込まれる…。コレがジャングル/ドラムンベース
●さて、このコンピが興味深いと思ったのは、ダンスホールレゲエからジャングルへの進化過程がハッキリ痕跡として見えるからです。コンピがリリースされた1994年は確かに今だジャングルの時代…1996年あたりがドラムンベースへ洗練されていく時期とボクは捉えています。ちなみに、浜田雅功&小室哲哉 H JUNGLE WITH T「WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーブメント~」が1995年です。
●なにせ、このコンピでパフォーマンスしているのは、当時ジャマイカの最前線で活躍してたダンスホールレゲエのヒーローなんです。これは珍しい!トラックメイカーやプロデューサーはイギリス人だけど、そのミュータントな後輩たちのトラックに合わせて本場のレゲエパフォーマーがワイルドな声を披露している。CAPLETON SIMPLETON、GARNETT SILK、HALF PINT、FRANKIE PAUL、そして NINJAMAN まで!これ、既存のボーカルトラックをそのまま拝借しちゃってるのかな?でもそのワリには「オリジナルジャングリスト!」とか叫んじゃってるもんな?ダンスホールレゲエが持つ独特の猥雑さがジャングルがもつ奇妙な体臭(人間くささ)を絶妙に膨らませてくれていて実に楽しい。激安ワゴンで発掘したこの物件は実にナイスな発見だ!

「HARDLEADERS 6 PRESENTS JUNGLE DUB 2」

「HARDLEADERS 6 PRESENTS JUNGLE DUB 2」1995年
●コチラのコンピは「JUNGLE DUB」と名付けられて入るいるものの、ジャングル世代というよりは、次に続くドラムンベース世代のアーティストで構成されている。RONI SIZE、DJ KRUST…このヘンは REPRAZENT のメンバー。他にも LEMON D.、DILLINGA(A.K.A. DILLINJA) とかとかの名前が見える。ただしこのあたりのアーティストがメジャーシーンで活躍し始めるのは1997年頃。このコンピがリリースされた1995年はまだ雌伏の時代、そしてジャングルの時代。しかしすでに高度な洗練に向けて進化が始まってる気配あり。UKダブの収穫を多様に活用し、ダンスホールのクリシェから自由となり、地球の重力を離れてよりスペーシーで抽象的な世界を描く段階に入っていく。
●ちなみに、90年代当時はどんどん進化/拡散していくドラムンベースのシーンに夢中でして、洗練以前のジャングルはイマイチダサイとボクは考えておりました。しかし!レゲエのイギリス的進化を考えるようになったココ4~5年の関心においては、むしろジャングルの方が大事でありまして。今日紹介した由来不明のコンピなど見つけちゃうとわざわざセッセと買ってしまうのです。実際、380円程度のゴミ価格だしね。

SMITH  MIGHTY「LIFE IS …」

SMITH & MIGHTY「LIFE IS …」2002年
●21世紀に入りドラムンベースのシーンも一区切りついた時代の音源…。ドラムンベーストリップホップの要素をソウルフルなボーカルを交えてポップに仕上げたアルバム。彼ら SMITH & MIGHTY の出身地はブリストル。大西洋に面した港町であるブリストルは外来文化の玄関口として機能してて、ジャマイカ移民もタップリいる土地柄、故に音楽的には常に先進都市でありました。80年代ニューウエーブ期には、ON-U SOUND と深い関係を持つ MARK STEWART のバンド THE POP GROUP などを輩出し、ドラムンベース方面では RONI SIZE & REPRAZENT CREW を、トリップホップ方面では MASSIVE ATTACK を輩出しております。うーん、全部ダブに影響を受けたアーティストだねえ!
トリップホップは、スモーキンビーツ、ダウンテンポなどとも言われてましたね。ヒップホップを英国流にアレンジしようとした時、まずはダブを援用したというのが実にUKのセンス。ややメランコリックな趣きが英国の正統派。
●このユニット、ROD SMITH RAY MIGHTY の二人組から出発してるから、SMITH & MIGHTY。レゲエの世界を見渡すと、SLY & ROBBIE、STEELY & CLEEVIE、ALPHA & OMEGA、DRY & HEAVY などなど、&をつけた二人組が大勢いるね!



そして、00年代、ダブステップ。

ドラムンベースのムーブメントが一区切りした90年代末~00年代初頭。その後のシーンに登場したのは、2ステップ、UKガラージ、グライムといった音楽たち。それぞれに意味のある存在感を放ったスタイルでした。そんな様々な潮流が結集する事で、このダブステップというスタイルが出来上がったのです。すでにこのムーブメントも盛りを過ぎたとも言えますが、今日は敢えてこのダブステップという音楽にフォーカスを当ててみます。

「STEPPAS DELIGHT - DUBSTEP PRESENTS TO FUTURE」

「STEPPAS DELIGHT 2 - DUBSTEP PRESENTS TO FUTURE」
「STEPPAS' DELIGHT - DUBSTEP PRESENTS TO FUTURE」2008年
「STEPPAS' DELIGHT 2 - DUBSTEP PRESENTS TO FUTURE」2009年
●ボクがダイスキなイギリスの SOUL JAZZ RECORDS。レアグルーヴ系やオーセンティックなビンテージレゲエをコンピにまとめて紹介するレーベルでありましたが、ダブステップのシーンに対してはほぼリアルタイムに反応していくつものコンピをリリースしてきました。過去の音源を見事なセンスでコンパイルする彼らが、現在進行形のスタイルにアプローチする。そんなコトにドキドキしたのです。この「STEPPAS' DELIGHT」(オールドスクールヒップホップの古典 SUGARHILL GANG「RAPPER'S DELIGHT」の故事に倣った、意欲的なネーミングにも敬意!)シリーズ二枚に加え、SOUL JAZZ「BOX OF DUB - DUBSTEP AND FUTURE DUB」というコンピを2枚、2007年にリリースしてる。このシリーズを網羅すれば、DIGITAL MYSTIKZ、KODE 9、SKREAM !、BENGA、PLASTICIAN、といったこのシーンの主要アーティストを一括りでチェックする事ができる。
ダブステップという言葉が登場したのは、2003年頃のサウスロンドンであるようだ。2008年リーマンショック以前のロンドンは一種のバブル経済でどんどん再開発が進み、街も成金めいたビジネスマンが闊歩するようになったという。ドラムンベースの成果をコジャレたハウスミュージックで甘くコーティングしたような音楽として時代に響いた2ステップは、そんな気分を反映していたのかもしれない。一方で、分厚い階級社会であるイギリスで誰もがそんな好景気の恩恵を受けられるはずがない。移民系のマイノリティだってロンドンには大勢いる…彼らの不満や怒りはドコに?そんな層から支持されて成長したのが、グライムでありダブステップであった。アメリカでいうヒップホップのポジションを担うようになるグライムは、感情に喩えれば「爆発する激情」。ワイルドなストリートライフを言語化して世間に告発する。そしてダブステップ「秘められたる激情」グライムのようにMCやボーカリストを据えない純粋クラブミュージックであるダブステップは、非言語のレベルで怒りを表現する。
●野太いベースと鋭いドラムという構造としては、ダブステップドラムンベースダブと同じだ。ただ、そのグルーヴには独特の「未解決」感覚がある。…実は、ダブステップ、イマイチ痛快には踊れない。意図的に「つんのめる」ような欲求不満をリスナーに強いる。強烈なスネアがグルーヴをズタズタと寸断して、敢えて疾走感を遮断している。なのに、ダブのようにユッタリ腰を据えた安定感もない。ドコにも解決していかないダンス衝動が蓄積されていく…。実に奇妙な感覚をこの音楽を聴くボクに植え付ける。
●これはナニを暗示しているのか?コレこそが「秘められたる激情」だ。好景気に浮かれる世間から疎外された人間が、鬱屈とした怒りをタダひたすら内側に押し込める…この有毒ガスのような不完全燃焼グルーヴと、容赦のない重低音ベースの圧力で、グラグラ煮えたぎる怒りの感情が爆発寸前の緊張にまで高められる。暗黒の中で高熱を孕む沈黙の激情。これがダブステップの真価ではなかろうか。
ダブステップの存在をボクが察知したのは2005~2006年あたりのコトで、今日紹介している音源もほぼリアルタイムで入手している。しかしこのブログでなかなか触れるコトができなかったのは、長い時間をかけても、この音楽に通底している感覚を言語化できなかったからだ。コレで正解とは思ってないが、やっと感情レベルで理解が出来たような気がした。

BURIAL「BURIAL」

BURIAL「UNTRUE」


BURIAL「BURIAL」2006年
BURIAL「UNTRUE」2007年
●コンピレーションを買ってるとはいえ、一方でダブステップのアーティストアルバムを、ボクはほとんど買ってない…。敢えてワザワザ買ったのは、SKREAM !「SKREAM !」2006年とこの二枚だけだね。そう、ナゼかコイツは実に気になる。
BURIAL という言葉を直訳すれば「埋葬」。あまりに底意地の悪いダークさが本当に気になる。深いエコーが確かにダビー、暗い夜のベッタリした湿度を感じる。曲名に見える言葉は、DISTANT LIGHTS、NIGHT BUS、BROKEN HOME、IN MCDONALDS、HOMELESS…。視点はダンスフロアを離れて、都会の寂れた風景の中に移ろいゆく。底辺から社会を見上げる都市生活者の冷えた日常とやり場のない鬱憤を象徴しているかのよう。MASSIVE ATTACK の21世紀版みたいな表現をされる時もあるようだけど、あのヒップホップベースの腰の据わったグルーヴとは微妙に異質の、座りの悪さが緊張と不安を煽る結果となってる。セカンドアルバムの「UNTRUE」になると、ボーカルをフィーチャーする楽曲も多くなり、ソウルフルな印象も醸し出すに至る。
●彼の作品をリリースするレーベルの名前は、HYPERDUBダブステップシーンの初期から活躍するアーティスト KODE 9 の主宰するレーベルだ。「ダブを超えていく」。そんな強い意志を感じる。



そして、JAMES BLAKE。ポスト・ダブステップ。グローファイ/チルウェイヴ。暗い密室のソウル。

JAMES BLAKE「JAMES BLAKE」

JAMES BLAKE「JAMES BLAKE」2011年
●これは去年一番繰り返し聴いたかも知れないアルバムだ。イロイロなコトがあった2011年、日常生活の中でヘコム事があった時、この音楽の内向きな優しさに助けられた…。
●結局の部分では、救いのない歌詞がか細いファルセットで淡く響くのみ…ダブステップの延長にある過酷なベースの音響が真っ暗な空間を支配しており、そしてそのスキマに大きく用意された無音のブレイクがその暗闇の深さを象徴している。しかし、彼のボーカルと、素朴なピアノタッチが、その大きな闇の中で小さくマッチを摺るようにほのかな人間性の温もりを感じさせる。この人間性の部分が、ソウルとして響く。熱量で言えば小さいソウル、しかし絶対零度の暗闇の中ではコレが暖かく優しい。そんな音楽。
●ロンドン出身の22歳。このファーストアルバム以前はストレートなダブステップのシングルを発表していた男。コンピ「STEPPAS' DELIGHT 2」にもそんな楽曲が収録されている。しかしこのアルバム以降は時代の寵児として様々なメディアやフェスで活躍することとなった。これは新しいソウルミュージックだ。ダブがイギリスのダンスフロアの中で化学変化を起こして生み出した、21世紀のソウルミュージック。世間では、この傾向の音楽を、グローファイ/チルウェイヴと呼ぶらしい。正直、現段階でこの言葉が指す意味や気分はボクにはあまりわからない。ただし、ダブステップが新しい段階に進化したのは明白となった。このような人間性の細かい機微を表現するに至ったのだ。
●一方、SOUL JAZZ RECORDS はダンスフロアにおけるダブステップの進化系を模索する新たなコンピをどんどんリリースしている。新型のグルーヴは次々に開発されていく。



●今日は、ジャマイカで生まれた「ダブ」という手法が、イギリスという全く別の環境で独自の進化を遂げて、実にユニークな音楽を生み出していった流れを見つめてみました。JAMES BLAKE の表現は実際とてもユニークで、イギリス人ならではのクリエイティヴだと思っています。これをソウルミュージックと呼ぶか?それは人それぞれかも知れません。ただボクが一番意味があると思っているのは、このような奇妙な曲解誤読が起こるコトの楽しさです。突然変異が発生し、新しい進化が起こる。そのユニークさに注目してそれを育む視点を持ちたいと常に思っています。






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