下北沢の駅前にまたも異変が。

博文堂書店閉店

下北沢駅北口の本屋さん「博文堂書店」が突然閉店してしまった…。

「昭和45年の開店よりご愛顧いただきましたが、このたび5月26日をもちまして、閉店させていただく運びとなりました。43年という長きにわたり当店にお寄せいただきましたご高誼に心から感謝申し上げます。」

下北沢駅周辺の再開発で、駅前市場が半分更地になってしまったのは、このブログでも以前紹介した(コチラ)。この本屋さんは解体が徐々に進むこの駅前市場にちょうど隣り合った場所。え、ここも駅前広場のタメに立ち退きを強いられるの?区の計画からボクが読み取ってた解釈では、この本屋さんはギリギリ立ち退き対象にならないはずと思ってたんだけど。再開発とこの閉店にどんな因果関係があるかはまだワカラナイが、とにかくビックリした。今のトコロ、同じ建物に入っている地下のワインバー?と2階の不動産屋さんはまだ営業している。
ボクにとって、レコードショップも本屋さんも重要な文化発信基地で、インターネットやマスメディアと同等、そしてそれらには代替出来ない価値を持つ。それがないがしろにされることは、その街にとって大きな損失になると思う。駅前に大きな広場を作った結果、その代わりに下北沢は大きなモノを失うかも知れない。



レコード屋や本屋さんがソバにあるコトの幸せ。
それをボクは、5月の奈良旅行で噛み締めた。



毎回旅行や出張で地方に行けば、その土地のレコード屋さんをまわるのがボクの習慣。5月GWに家族四人で奈良旅行した時(詳しくはコチラコチラ)にも、やはり奈良の街でレコ屋巡りをした。その時に見つけたのがこのお店。
●今日紹介するこのレコード屋さん、DJANGO RECORDS は、そのご主人・松田太郎さんがtwitterでハッキリと「経営が苦しい」と表明している。今月は営業してるけど来月はもうつぶれちゃってるかもしれない、そんな感じまで出ちゃってる。その毎日のツブヤキが、今の時代でレコード屋さんを続けていくことの困難さや、地方全体の困難さを象徴しているようで、非常に示唆的でもある。
●例えば、6月12日のつぶやきのひとつを引用。

「土日祝日のゼロは避けたいけれど、さっきのカフェ巡り中の雨宿り女子以外やはり誰も来る気配なし。先の女子を計算に入れても今週はまだ10人も人が店内を訪れていない。何かの異常性を感じるほどに人が来なかった1週間。3ヶ月黒字達成のためにも流血の日々は今日で止まって欲しいところ。」


●…お客さんがゼロの日も珍しくないらしい…。ご主人・松田太郎さんのアカウントはコチラ。https://twitter.com/djangorecords



ジャンゴ

DJANGO RECORDS(奈良市餅飯殿町 36)
●現代の奈良市ダウンタウンを朱雀大路のようなノリで貫いているのはJR奈良駅奈良公園を東西につなぐ三条通という道。おミヤゲ屋さんもイッパイ。ココを奈良公園地帯直前まで歩いた辺りでニギヤカなアーケード商店街がいくつか見つかる。そんな商店街の中で、南側へ伸びていくのが「餅飯殿通り(もちいどのとおり)」。決して太い道ってワケじゃないけど、おミヤゲ屋さんに混じって、古着屋や古本屋、雑貨、カフェが散らばる地帯。さらに奥に進むと「ならまち」と呼ばれるシックなカフェエリアに到達する。そんなアーケード街をちょい進み、ワリとスグにパコッと右折したトコロにこのお店がある。営業時間は15時〜20時ごろ。オープンが遅いのでご注意。21時ごろまでやってる場合もあるみたいだけど、残念ながら奈良の街全体のクローズが早くてこのお店以外の周囲が19時以降は死滅状態になるのでこれもご注意。

予備知識ナシでパッと訪れた印象で言うと、在庫アイテムの数が少ないな…と思う。最初はあまり買い物するものはナイかなと思ったり。ボクの買い物は、お店サイドがどうでもイイと思っているようなアイテム、つまりお値段安め設定の中からナイスなものを見つけ出すスタイル。言わばお店サイドの隙を探して「こんな貴重なものを安い値段でタタキ売ってしまうなんて残念だねーシメシメ」と思いながら漁盤していく。反対に、お店のこれ見よがしのオススメを買うことは少ない。だってそんなのは高い値付けになってるから。なので、激安ワゴンから漁り始めるんだけど、そういう扱いを受けるモノがこのお店にはナイ。在庫アイテムが圧倒的に少ないから。おそらくココにはたくさんの在庫を抱えていられないという経営上の問題があるのかも知れないが、お店を訪れた瞬間にはそんなコトには気付かなかった。

その一方で、よーくお店の在庫を眺めると、ソコにはお店の主義があることがワカル。このお店は「どうでもイイと思ってるようなモノはお店に置かない。置きたくないモノはお店に置かない」のだ。転じて、この少ない在庫は「お店が100%の気持ちを込めてオススメする厳選アイテム」であることがワカった。在庫が少ないので全アイテムをそんなに時間をかけずに全部チェックしたのだが、そこには都度都度に愛を込めた POP が必ず書き込まれている。これが愛おしい。迸る音楽愛。ボクはそういうものに触れると、黙っていられなくなる。結果、ここでたくさんの買い物をしてしまったのだ。

ジャンゴレコード

●POP なんてモノは、ヴィレッジヴァンガードでもタワーレコードでもどこでもやってるじゃないか、との指摘もあるでしょう。でもココの POP はなんだか呪いのような執念のような、いつもと違う熱を感じたのですわ。コジャレた視点からチョイチョイ情報を足して「オススメですよ〜」なんて言う気分じゃないんですよ。テンションの部分で「四の五の言わずにコレを買え!」とストレートに訴えているんですよ。「買って聴けばワカルから、まず買え!」そんなポジションから書かれている POP ってナカナカないですよ。もうね、気迫ですよ。ボクにはこの POP から闘気が立ちのぼるのが見えましたよ。それはたった1人で全ての POP を書くご主人の少々ヘタクソな字(失礼…)もその気分を醸す一因にもなっている気がするんですけど、とにかくこの POP がボクのハートに刺さりました。だってボク「すみません、この POP も一緒に買わせてもらえませんか」ってお願いしてしまったほどですもん。「あ、これ、この後も使うんで…ゴメンナサイ」って丁寧にお断りされちゃったけど。そりゃそうですよね、ほんとスミマセン。ですのでこの写真は、お店で撮影させてもらいました。

●さて、まずは買い物の内容を。

「MULRIPLICATION ROCK」

SOUNDTRACKS「MULRIPLICATION ROCK」1973年
●アメリカ ABC 放送が70年代にやってた教育番組のサントラ。いわゆる「かけ算おぼえウタ」で2の段から9の段、11の段、12の段、おまけに0の段を教えてる内容です。これがキュートな佳曲揃いで90年代フリーソウル期には SUBURBIA SUITE 文脈から再評価されて一気に有名になりました(その筋のヒト限定ですけど)。ボクの中では3の段のウタ「THREE IS A MAGIC NUMBER」DE LA SOUL が1988年のデビューアルバムで見事にヒップホップカバーしたことと、JACK JOHNSON がアニメ映画「おさるのジョージ」サントラ2006年で爽やかなアフターサーフ感覚でカバーしたのが印象深い。JEFF BUCKLEY BLIND MELON がカバーしたバージョンもあるという。

THE BRADY BUNCH「THE KIDS FROM THE BRADY BUNCH」

BRADY BUNCH「THE KIDS FROM THE BRADY BUNCH」1972年
●ご主人のコメントによると「1970年代のちびっこソフトロックの金字塔!!子供たちが歌ってます!CHICAGO の SATURDAY IN THE PARK 他カバーが最高!現在はCDにすらプレミアが付いてます」。前述「かけ算ロック」と同じアメリカ ABC が1969〜1974年まで放送していた「ゆかいなブレディ一家」というホームドラマから、数々のポップアルバムが当時リリースされてたようで、コイツはその一家の6人兄弟(三男三女)によるアルバム。CHICAGO のカバー、THE BEATLES「LOVE ME DO」、MICHAEL JACKSON「BEN」カバーも搭載。最後の曲「DRAMMER MAN」が極上ドラムブレイク満載で最高。ワウワウギターのファンクネスが実に70年代で美味。
「ちびっこソフトロック」なるジャンルがあるかどうかは別にして、JACKSON 5 やその白人版 THE OSMONDS みたいなちびっこ兄弟グループはアメリカにはちょいちょい登場するもので、これがナカナカにポップで楽しい。これもその類いとしてとっても楽しかったです。他のアルバムも聴きたいね。

SHIRLEY SCOTT「SUPERSTITION」

SHIRLEY SCOTT「SUPERSTITION」1973年
60年代〜70年代前半にかけて活動した女性オルガンプレイヤーJIMMY SMITH に憧れてピアノからハモンドオルガンに転向、ハードバップ〜ソウルジャズシーンで活躍する。オルガンジャズってカッコいいな〜。あの温もりあるオルガンの音がグッと熱いソウルを音楽に宿らせるのですよ。70年代ニューソウル革命を迎えたこの時期に、STEVIE WONDER の表題曲や THE STYLISTICS「PEOPLE MAKE THE WORLD GO 'ROUND」をカバー。さらには THE BEATLES「LADY MADONNA」 THE CARPENTERS「RAINY DAYS AND MONDAYS ALWAYS GET ME DOWN」、サントラ名曲「LAST TANGO IN PARIS」も灼熱ファンクにカバー。

TRISTE JANERO「MEET TRISTE JANERO」

TRISTE JANERO「MEET TRISTE JANERO」1969年
●ご主人のPOPによると…「たった一枚のこのアルバムを残して消えたソフトロックの伝説!90年代のレコードバブルの時代には10万円という値が付きました!信じがたいほど充実した傑作!フランシス・レイ、LOVIN' SPOONFUL、ニルソン ETC のカバーも最高!ロジャー・ニコルス級の1枚!!」「オークションをスマホでチェックすればすぐにわかると思いますが、何万円も付いてる。中古が高くて有名な1枚です!最後の入荷かも!マジで!!」「インターネットを調べてみんなの声やレビューを見ても本物の名盤であることは動かしがたい!!マジで名盤です!!」「死んでも買っておくべき!こんなことはこの先2度とないでしょう。1960年代ソフトロックシーンで最も水準の高い音楽性!中古で1枚あたり3万〜10万円出した人も本当にいる!」…つーか、もう理屈じゃねえよ、気合いだよ、って伝え方がすごいですよね。びっくりマークがいくつあるんだ?LP盤にPOPが4枚もついているんですよ。LPジャケがCDより優れている美点に「POPをいっぱい付けられる」というメリットがあったのかと深く納得しました。
●ボクはソフトロックは得意な分野ではないので、彼らがどんなバンドだったのかは本当にわからない。テキサス州ダラスのバンドなのかな?ボサ風味と小気味よいポップス感覚がマイルドに溶け合って、女子ボーカルがクールに機能。ボクは DIONNE WARWICK のカバー「WALK ON BY」が好きだなあ。

SALT WATER TAFFY「FINDERS KEEPERS」

SALT WATER TAFFY「FINDERS KEEPERS」1968年
●コチラもこのアルバム1枚きりで歴史の中に消え去ったソフトロックバンド。前述 TRISTE JANERO 同様、メンバーに女子がいるのが好感度高いね。コッチなんて2人いるからね。ワクワクするようなホーンアレンジが楽しい!ご主人のPOPも三枚くっついて大プッシュ。「ソフトロック10大名盤と語りつがれる文句なしの名盤!胸キュンのロジャー・ニコルス〜 FLIPPER'S GUITAR 直系!1960年代にコレ1枚を残して消えた。」「中古レコードの値が全く値崩れせず、今だに万単位で売買されています!今すぐヤフオク ETC をチェック!!」「SOFT ROCK の頂点とも言える1枚!」

THE FOUR KING COUSINS「INTRODUCING THE FOUR KING COUSINS」

THE FOUR KING COUSINS「INTRODUCING... THE FOUR KING COUSINS」1968年
「1960年代のソフトロック〜POPS 伝説の頂点です!先に申しますが、これは死んでも買うこと!買わないと何かの罪になるほどの名盤!ロジャー・ニコルスの死ぬほど良い書きおろし曲まである!ドラムはハル・ブレイン!凄すぎ!」「新品DEADSTOCKです!ヤフオクETCを見れば分かりますが3万円くらい付くことも普通です!もう本当に見おさめでしょう。迷うな!考えるな!大昔のCDもプレミア付いてます。くどいですが買うべき!」もうね、ここまでPOPで煽られると、もう買わない訳にはいかないでしょう!「買わないと罪!」とまで言うんですもん。だから買いました。もうご主人の言う通りにします。その熱意に敬意を表して。このモッズ女子4人のジャケだけでシビレルしね。
●で、実際に針を落すと、マジでスウィート。甘い甘い4人女子のコーラスと、甘い甘いオーケストレーション。BART BACHARACH「WALK ON BY」がステキ。THE BEATLES のカバー「GOOD DAY SUNSHINE」「HERE, THERE AND EVERYWHERE」がステキ。THE BEACH BOYS「GOD ONLY KNOWS」がステキ。つまり捨て曲なし。

SAYOKO-DAISY「TOURIST IN THE ROOM」

SAYOKO-DAISY「TOURIST IN THE ROOM」2012年
●さてコチラから先は完全なる自主制作音源。このお店の常連さんである主婦の女性が作ったとな。なぜか「常連の主婦」ってキーワードで押されてました。内容は、ホントにこの SAYOKO さんがたった1人で作ったと見える宅録打ち込みポップス。ボーカルのエコーが80年代テクノポップ風味で、甘いウィスパーボイスが90年代渋谷系っぽくて、キュートなスカスカ感が初期 ANTENA を連想させたりもする。
お店の常連が、そのお店を作品発表〜流通の場にしてしまうって、なんだかスゴいことだ。売る側の人間と買う側の人間が、結果として仲間〜共犯関係で結ばれているってステキ。行きつけのバー、行きつけのカフェがある人ならイメージ出来るかも知れない。それがもっとツッコンだカタチになっている。

ROU ROU ROU ROUS「DOTS AND LINES」

ROU ROU ROU ROUS「DOTS AND LINES」2013年
●これ、ルルルルズと読みます。邦題「点と線」。渋谷系直系の淡いメランコリーが響くポップス。このバンドのメンバー、ギター/キーボード担当の行達也さんという人は、下北沢 MONA RECORDS の店長さん。MONA RECORDSライブスペースであり、CD/雑貨ショップであり、カフェでもあり、インディレーベル機能も持っている、非常に興味深いお店。おお、MONA RECORDS ですか!ボクは東京の下北沢に住んでるんですよご近所ですよ。ボクは奈良まで来て自分の家の近所で作られてるCDを買おうとしているのか…なんだが不思議な気分になった。



結論を言ってしまうと、大変な困難があるだろうけれども、こうしたお店には長く長くガンバってもらいたい。

●このルルルルズをキッカケに DJANGO のご主人・松田太郎さんは、この MONA RECORDS 行達也さんとのご縁を説明してくれた。さんはこのお店とご主人・松田太郎さんを取材で訪れたことがあるという。そのインタビューコラムがコチラ→「CDV-NET 連載コラム TALK へ行きたい 第38回 全国名物店員訪問記」http://cdvnet.jp/modules/column/apr12/talk/p1.php

●そしてコチラもご覧いただきたい。「TOGETTER 応援続々!奈良の老舗CD/レコード店ジャンゴを守れ!」ヒダカトオル氏、片寄明人氏、松浦達氏、森山公一氏、他、地元ミュージシャン達からも続々上がる老舗レコード店応援の声。奈良の名店の命運や如何に。http://togetter.com/li/468634

●これらのテキストとご主人のツイッターと合わせて読むと、奈良という街が、いや日本の地方都市全てが、レコード屋にとっていかに厳しい環境か、ナカナカにリアルな気分が伝わってくる。全世界の音楽業界全体が大きな転換を迫られている昨今、さらに厳しい経済環境にある地方都市で個人がこうしたお店を経営するコトは困難になっているようだ。ご主人は何回もつぶやく。日中は観光客がいても夕方を過ぎると誰もいなくなる。ボクもこの街の夜のクローズが早過ぎると確かに感じた。奈良のような有名都市でこの有様。人がいないのでは、どんなビジネスも成り立たない。


●音楽業界や出版業界、既存マスメディア全般が、激しい構造改革に迫られている中で、誰もが新しい生存の方法を探している。ネット技術の発達は、コンテンツの流通やプロモーションの方法に大きな可能性を切り拓いたが、これらのコンテンツに関わる仕事を職業としたい人々へ、その生活を成り立たせるだけの経済的見返りをうまく配分する仕組みにまで成熟はしていない。

DJANGO RECORDS は創業25年を超えるお店だ。古き良き時代の思い出に安住し、旧態依然とした業態にしがみついて時代についていけなくなったと批判するのは容易い。しかし、ボクはこのお店には価値があると思っている。奈良という地理的条件にコダワリ、良き音楽を発信するという情熱、これに価値があると思っている。ネットだけでは伝わらない、こんなお店が演出する、街の中での偶然の出会いが、若き音楽マニアを育てているとボクは思っている。ボク自身がこうしたお店に育ててもらったし、ボクが日本各地を旅行して数々のレコ屋を巡るのもそんな偶然の出会いに今も強く憧れるからだ。そしてボクはそこで買い物をする。オカネを使ってお店に還元する。価値があると思うから8枚もイッペンに買う。



味のあるリアル店舗を大切にしたい。それは、そこで買い物をするボクら自身の責任だ。下北沢の駅前から本屋さんがひとつ消えた。本当は見過ごせないことだ…ボクはあそこでたくさんのマンガを買ってきたし、これからも買い物をしたいと思っていたから。そうしたコトを大切にできない街は、いつかダメになっていくだろう。
それでも、下北沢はイイ街だ。行達也さんのような人が MONA RECORDS のようなお店を経営している。個性的なレコード屋や本屋はまだ他にもある。劇場もライブハウスもカフェも古着屋もある。…実は、この文章を書いている途中でボクはターンテーブルの針をへし折ってしまった。でも徒歩数分の距離にある下北沢ディスクユニオンへ行くことで、SHURE のカートリッジをすぐに入手することができた。ターンテーブルの針がさっと購入出来る街なんて、レアですよ。そんなユニークさを持つこの街にいつまでも住んでいたいし、守っていきたい。


スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://unimogroove.blog4.fc2.com/tb.php/1524-1158f50c