「暗愁」。

●ある精神科医の先生が、「音楽療法」という文脈の中で、ボクに教えてくれた言葉。

「暗愁。
 普通の日常生活の中で、突然根拠もなく気持ちがグッと落ちることがあるでしょう。
 それを、暗愁というんです。五木寛之さんが作った言葉といわれてますけどね。
 アダムとイブが知恵の実を食べて楽園を追い出されてから、
 人間には自分の存在そのものをどこか後ろめたく感じる気持ちがある。
 そんなキリスト教の原罪説まで弾かなくても、
 結局、他の生物を殺し食べ、他の人間と摩擦を繰り返す毎日は、
 個々人の気持ちにDNAレベルで後ろめたさとして染み込んでいる。
 そんな時、暗愁がふと湧き上がってくる。感情が暗愁に絡めとられていく。
 音楽は、言葉なくしても、感情を揺さぶる力があるでしょう。
 突然涙が流れてしまうことがあるでしょう。
 暗愁に深くとらわれてしまった時には、
 音楽の力を借りて、気持ちの切替えをしましょう。
 日常生活からも感覚を切り離し、音楽の抽象美に身を浸しましょう。
 そうすることで心の健康を保つことができると思います。」

「暗愁」。キレイな言葉だなと思った…。
●深い「暗愁」と相性のイイ、慎ましやかな音楽もこの世にはあると思う。


今日紹介する、このブラジル音楽は「暗愁」と相性がイイ。「暗愁」を甘美さを添える。

ARTO LINDSAY「O CORPO SUTIL : THE SUBTLE BODY」

ARTO LINDSAY「O CORPO SUTIL / THE SUBTLE BODY」1996年
●ワールドカップって終わったんですか?全然見てないからワカンナイ。急成長市場の未来世紀ブラジルには興味はあるけど、サッカーそのものにはあまり興味がない。日本戦も見てない。でも、せっかくだから、ブラジル関係の音楽を聴く。これがとても美しかった。
ARTO LINDSAY。70年代末ニューヨークパンク〜ノーウェーヴの最奥部から出現、アバンギャルドトリオ DNA のエキセントリックなギタリストとして活躍。その後は THE LOUNGE LIZARDS に加わってフェイクジャズを気取り、よりエクスペリメンタルなユニット AMBITIOUS LOVERS を結成して80年代を過ごした後、一区切りついたタイミングでリリースした始めてのソロ名義作。
ARTO LINDSAY は、ルックスだけでみると、アメリカ人の実に陰気なメガネ野郎だけど、少年時代〜思春期をブラジルで過ごした男。「半分ブラジル人」として、ボサノヴァやその後の後継ムーブメント・トロピカリアに影響されてる。で、結果的に、ここでは億面なくストレートアヘッドなボサノヴァを披露。これが実にシリアスで、緻密で、甘美。
●最低限に絞り込み研ぎ澄ました音は鋭利な刃物のような緊張を孕んでおり、やっぱり陰気な ARTO 自身のボーカルも奇妙な緊張を感じさせるが、メロディは美しく、脆いガラス細工のような儚さが耳に優しい。サンバ駆動の楽曲も、音を絞り込んで下世話にはならない…というか、サンバは、元来シックでスマートな音楽だ。カーニバルの騒々しさはあくまで一面であって、アコースティックな佇まいは枯れ寂びて、どこか物悲しい。
●ボクのCDは日本盤、フォーライフ坂本龍一が運営していたレーベル GUT からのリリースだ。あったねー GUT坂本龍一さん、咽頭がん発症。なぜミュージシャンはみな咽頭がんなんだ?忌野清志郎さんしかり、桑田圭祐しかり。

PETER SCHERER ARTO LINDSAY「PRETTY UGLY」

PETER SCHERER & ARTO LINDSAY「PRETTY UGLY」1990年
●クラシック分野からアバンギャルドに参入してきたキーボード奏者 PETER SCHERER と、半分ブラジル人のパンクメガネ ARTO LINDSAY。この二人がズバリ、AMBITIOUS LOVERS の全構成員だ。たぶんレコード会社との契約で、AMBITIOUS LOVERS 名義が使えなかったのだろう。コイツはベルギーの特殊レーベル CRAMMED DISCS 「MADE TO MEASURE」シリーズとしてリリースされたモノ。このシリーズは、舞台の劇伴音楽や前衛バレエのサントラなどを中心に扱うラインで、この作品もドイツ・フランクフルトのあるバレエ団のために録り下ろされた楽曲たちだ。
●どんなバレエだったが全く情報がないが、えらくエキセントリックだったのはマチガイナイ。アルバムタイトル曲「PRETTY UGLY」は26分もある長尺曲。工業機械がガシャガシャ稼働しているかのようなノイズ/インダストリアルビートから、ノー・ウェーヴ上がりの ARTO LINDSAY ならではの神経質なギタープレイ、エレクトロニカ志向の PETER SCHERER によるアブストラクトもの、ミュージックコンクレートな具体音のコラージュなどなど、およそ古典バレエにはそぐわない奇妙な音響がどんどん展開していく。他の楽曲もオーケストレーションを駆使して不安を煽るものだったり、
●ただ、チラリと登場する、エレガントなボサノヴァ歌唱、控えめなピアノ伴奏、にはササクレた神経を優しく慰撫する効果がキチンとある。50〜60年代のボサノヴァとは異質の、ハイフィディリティ音響がピキッとした緊張を漲らせている。人肌の温もりとは別次元の、冷たく結晶化した美しさ。

ARTOLINDSAY顔
●ちなみにこれが、陰気なメガネ野郎、ARTO LINDSAY の顔。「O CORPO SUTIL」のウラジャケ。



●動画。



●「4 SKIES」
●絞り込んだ音数、どこか不安な音を響かせるギター。貧弱なボーカル。それが儚くて美しい。




●「ASTRONAUTS」
●低音が実はとてもモダンで最近のベースミュージック風にも聴こえるが、実はしっかり古典サンバの駆動力。




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