「村上隆の五百羅漢図展」六本木・森美術館

五百羅漢図

●この前、ワイフと二人で中野に行った際、BAR ZINGARO でお茶して、村上隆世界の雰囲気を吸ったもんだから、もう会期もお終いのタイミング、会社終わりの金曜夜に行ってみた。展覧会が終わる最後の週末は深夜1時までオープンしてるというナイスな配慮。レイトショー気分で絵画鑑賞とは。結果、終電ギリになっちゃったんだけどね。
●おまけに、写真は取り放題、ぜひソーシャルにあげてください、っていうんだから大盤振る舞いだよね。

●実を言えば、そんなに大きな期待はしてなかった…いつもの村上隆さんかなー程度の関心でさ。

●でも、作品のあまりのパワーに、胸が熱くなるほどの感動が溢れるような経験となったのです。

IMG_4169.jpg

「五百羅漢図」の制作の経緯。
この作品は、超でかい。高さ3メートル、幅100メートル!その100メートルが4つのパートに分けられており、その中に500人の羅漢が描かれている。制作は2012年。最初の発表は中東ペルシャ湾の豊かなオイルマネー王国・カタールの首都ドーハで行われた。カタール村上隆の縁は深くて、彼の武名をさらに高めたベルサイユ宮殿での展示2010年もカタール王国がスポンサードしてたはずだ。2008年リーマンショックで冷え切ったハイアート市場でも中東のパトロンはぶれずにアーティストを支援していて、村上隆はこの延長でドーハでの展覧会をオファーされた。現地で会場下見に行くも、小さいギャラリーとコンベンションセンターみたいなオオバコしかない。このくらいのサイズはどーですかねーとメモを書いたら、そのままの建物が更地から造られてしまったという。
●そんなタイミングで、2011年。東日本大震災が発生。この大きな災厄を契機にして、村上隆はこの巨大作品「五百羅漢図」を制作する。以下は、「芸術新潮」2012年5月号からの、村上隆本人による文章からの引用。

「挑戦のきっかけはもちろん東日本大震災。日本国家の有事を前にしたわれわれ国民の無力感がテーマになっているのですが、そんな無力感の中でも人は生きていかなければならない。数百年前に震災に遭ったり、戦国時代の戦争で疲弊しきった大衆はきっとみんなそういった気持ちだったのだろう想像しますし、その無力感からの救いを宗教的な説法に求めつつ生きていたはずだと推測。今また日本人の死生観のギリギリのところが問われるような状況が出現し、それに立ち向かってゆくための新たな説法が急務である、と、そんなことを強く感じ、描いた作品です。」

●震災発生からドーハでの発表まで1年強。こんな大作をよくぞ1年という短い期間で制作したもんだと驚く。鑑賞していくウチにどんどんハマり込んで気づいていくのだが、これがただデカイだけじゃないのよ、とにかくすごいのよ描きこみようが!これぞ現代の狩野派工房・株式会社カイカイキキの実力なのかな。

猛烈な芸術的熱量にアタマとココロが混乱していく。
「スマホでどうぞ好きなだけ撮影してください」って言われると、絵画鑑賞のスタイルって激変する。スマホの画面の中でトリミングされた、絵画のデティールが奇妙な見え方になってくる。どんなに撮影しても無限に撮影すべきパーツが出てきて止まらない。カシャ、カシャ、カシャ、いつしか興奮してる自分を見つける。
●仏教の神格/「羅漢」という人物たちが広い画面の中で500人もいる。しかもこれが、3メートルの巨大なものから、数センチ程度の小さいものまで、すべて違う衣装、違うポーズ、違う表情で登場する。でっかい羅漢ちっちゃい羅漢それでも全部羅漢、まるで同じパターンが極小から極大まで連続するフラクタル図形のような無限の連鎖に迷い込んだ気になる。これも含めて仏教のアレゴリーなの?しかもこれがスマホの画面に入ると、これが全部同じサイズの羅漢に写っちゃって、等価値のフラットな存在になって浮きだす。極大から極小まですべての要素からの均等な総攻撃にボクはボコボコタコ殴りにされる。
フラクラル的表現は人物である羅漢にとどまらず、画面に巨大なリズムを作る渦巻きや火炎の奔流、ドット模様も、極大から極小まですべての要素が饒舌に自己主張してくる。この高密度大容量なメッセージやドラマを、アーティストが100メートルの大絵画にこってり盛り込んだ事が脅威。そんな大作が、カタールでの発表以来、初めて日本で展示される。それが今回の意義。

●作品は4つのパーツに分かれている。「青龍」「白虎」「朱雀」「玄武」
●サブタイトルのように書いた言葉は、ボクが受け止めた印象であって、作家のメッセージではないのでご注意を。

「青龍」:津波の奔流
●高い空から降りてきて、その巨躯を水面に叩きつける「青龍」。一方では海底から巨大な白鯨が急浮上。その結果、無数の大きな渦が巻き起こる。人智を超えた圧倒的なパワーは描きこまれた螺旋のエネルギーに象徴されている。

IMG_4175.jpg

IMG_4184.jpg

IMG_4186.jpg IMG_4182.jpg

渦巻きが織りなす曲線の力と、フラクタル的に無限に増殖するかのようなエネルギーに、ただひたすら圧倒。そして、そのデティールが細かく細かく設定されているところが本当にすごい。この大画面の細部に渡る全部に、作家の冷静な意図が仕込まれていることに驚愕する。

「白虎」:業火と祈り
大火炎が画面全体を燃やし尽くしている。この火炎は元来この地球上では燃えてはいけないもの。この星はこの炎に持ちこたえられない。が故に、羅漢の大幹部をはじめ最も多くの羅漢が動員され、それぞれが強くこの炎に対抗して念じている。「白虎」もこの炎に苛立っているようだ。

IMG_4199.jpg

IMG_4198.jpg

IMG_4166.jpg IMG_4172.jpg

●そんなに多くない、横顔で描かれた羅漢の一人が、我々を強く糾弾するように此方を睨んでいる。「この炎を起こしたのは誰だ?」…大火炎は奔放に空間を暴れ回る。その様子は、後期のリキテンシュタインが接近した抽象表現や、平安時代の絵巻物で描かれた火災の様子を連想させて、接近すればするほど重厚に塗りこまれていることに気づく。

「朱雀」:静寂と鎮魂
画面は一気に暗くなり、静謐なイメージが神聖さを感じさせる。羅漢たちはこの宇宙空間で座禅を組み、人々の魂を慰撫するかのように優しい。そして中央に巨大な「朱雀」=「火の鳥」手塚治虫を連想させる神々しい生命の象徴が画面中央で優美に羽ばたく…。

IMG_4219.jpg

IMG_4234.jpg

IMG_4227.jpg IMG_4224.jpg

●宇宙空間を構成する細かいドット柄も細かく計算されて、美しいグラデーションを描くべく、微細にその色彩や形状が個々別々に調整されている。これが実に眩しく美しい。そしてこの羅漢の慈愛の表情。凍てつく宇宙空間の中で、温かい感情に触れる。

「玄武」:快復する生命
画面は快活さを取り戻し、阿吽の関係にある赤鬼青鬼がダイナミックに跳躍する。亀のイメージで知られる「玄武」はここに登場しない。が、四つ目のモコモコした怪物と、「もののけ姫」「シシ神」を連想させる動物が、健全な生命力を運んできてくれているようだ。

IMG_4243.jpg

IMG_4237.jpg

IMG_4250.jpg IMG_4235.jpg

●赤鬼青鬼に挟まれて、黄色い山がニョキニョキと育っていく様を一人の羅漢が見上げている。山の斜面にはおどけるようにカンフーのポーズを決める小さな羅漢の群れが。岩のような雲が徐々に吹き流されて、眩しい空が戻って来るようだ。
●正直、このあたりでボクはもうクタクタで、絵画のパワーに飲まれてしまって…。しかしその一方でこのゴールのパーツで癒しを感じてもいた…。

●この作品は「村上のゲルニカ」と呼ばれているらしい。納得できる。


●この作品は、当たり前だが村上隆本人が絵筆を片手にモリモリ全部描いたわけじゃない。
●彼にはこうした制作を組織的にこなすカイカイキキという会社組織がある。さらに今回は、全国の美大から志望者を募ってチームに編成。24時間シフトを組んで彼らを稼働。スタジオも絵画のスケールに合わせて改装/拡張してしまったほど。最終的には200人ものスタッフが関わったとな。チームの中にはリサーチ班もあって、彼らは古典美術の中から参考になる意匠をレポートのようにまとめたりしていた。資料ファイルは100冊を超え、使用されたシルクスクリーンは4000枚以上になったという。
この作業がいかなる激闘だったか、その資料や指示書などなどの展示から、読み取れてしまう「まんだらけ」のセル原画売り場みたいな感じに展示されてた指示書には、これまた厳しいダメ出しが…。

IMG_4205.jpg IMG_4201.jpg

IMG_4203.jpg IMG_4204.jpg

・右上:「指示書どうりにヤレ!ボケ!」
・左下:「赤印の肌やり直し ひでーなー 低レベル…」
・右下:「この小さな空間にキッチリドラマをブチ込め!!」

●絵画を描くというよりは、アニメ監督が、作画担当にワンカットづつチェックを入れてる感じだね…。宮崎駿もきっとこういうことしてたんじゃないか?って勝手に想像しちゃった。
●でも、美術の世界で、そんなスタジオのシステムを組み上げたこと自体が、大いなる挑戦とその成果ってことだね。だってその宮崎さんのジブリだってもう開店閉業状態になるご時世なんだよ。なのに彼は世界中からドデカい仕事をとってスタッフを養い、自分の後裔としてアーティストを送り出したりもしてる。

IMG_4254.jpg IMG_4257.jpg

IMG_4266.jpg IMG_4263.jpg

●その他、ゴールドやシルバーでピカピカの大きな立体作品や、抽象度の高い絵画がたくさん展示されておりました。
●とくにボクは、ゴールドにただの丸、の作品が好き。タイトル失念…。これはズバリ禅宗系書画の一ジャンルである「円相」でしょ。ホントの「円相」だったら、白紙に墨汁でまるっと筆書き。でも、きっとこの丸は、その筆致やペンキの滴り、一周回ってのかすれ具合も、その点々の一つ一つも、全部PCでデザインされてて、緻密に造詣されてるはず。バックのゴールドも狩野派絵画から引用されたイメージなのだろうけど、よく見ると「タイムボカン」シリーズのどくろべえさまが全面を覆っておりまして。このどくろべえさまも、作家が20年来用いているモチーフだし、どんどん進化をしている。「五百羅漢図」をはじめ、東洋古典美術の様々な文脈、そしてアニメやマンガ、キャラクターたっぷりの戦後文化、を現代の東洋人作家としてのアイデンティティ(または「タカシムラカミ」というキャラ設定/海外顧客からの見え方)として、最新の手法を用いて打ち出していく感覚。それがやっぱりこの人をスリリングな存在にしているのだなと、今一度感じ入ったのでありました。

●そして、彼は、こうして磨き上げた技術と組織をフルに駆使して、日本が新たに抱えてしまった(抱えきれないかもしれない)新しい物語=東日本大震災&福島原発事故に対して、素早く反応して見せた。ボクは同じ日本人として、この作品の迫力あるメッセージに震える。あの時に流れてた即席の復興応援ジェイポップよりもずっと。


「芸術闘争論」 「芸術起業論」

●この文章を書きながら、以前読んだ作家の著作「芸術起業論」2006年「芸術闘争論」2010年をペラペラめくってみたんだけど、ホントこの人は日本の美術界に対して激しく苛立っているんだなーと再確認。
●そもそもこの「五百羅漢図」日本初公開だし、日本での個展自体が14年ぶり日本にニーズがないから海外で商売してますと、てらいなく発言しますもんね。でかいことをするなら、でかいスポンサーが必要だし、そのためならルイヴィトンでもベルサイユでもオイルマネー王国でもお客様としてお付き合いさせていただきますっつーことだもんね。で、これを他人がやろうと思ってすぐできる話じゃないし。既存美術界から見れば、取り扱いが面倒くさいということでしょうか。
●似たことをしているのは「チームラボ」かも。テクノロジーを駆使したインスタレーションをシンガポールとかで売ってるよね。あそこのカリスマ・猪子寿之さんも東洋古典美術に傾倒してて(というかマーケティング的にネタを嗅ぎ当てた?)、伊藤若冲作品を4K画質で動かしたりしてるもんね。ただ、海外市場にうって出て、自分の見え方に意識的になっている点では同じかも。


●さて、音楽。90年代の村上隆さんが関与してた物件。

攻殻機動隊サントラ1

「攻殻機動隊 MEGATECH BODY. CO.,LTD. プレイステーション・サウンドトラック」1997年
プレイステーション(初代)のゲームソフトのサントラを、石野卓球キュレーションで当時欧米の一線級テクノアーティストが手がけた場面がありました。卓球の声掛けに集まったのは、MIJK VAN DYKE、WESTBAM、HARDFLOOR、CJ BOLLAND、JOEY BELTRAM、そしてテクノゴッド DERRICK MAY などなど。そんな豪華なメンツが二枚組の内容で新曲を提供しております。
●で、裏ジャケにご注目。

攻殻機動隊サントラ2

●こっちの「DOBくん」は、今回の個展で展示されてた作品の一部。

IMG_4113.jpg

この2つの絵、似てる!似てる気がする!
「攻殻機動隊」の多足戦闘ロボット・フチコマは人工知能搭載で、作中ではマスコットのようなカワイイキャラになってる。そして村上隆が20年以上にわたって愛してやまない自作キャラ「DOBくん」。これが同じような造形の雲?煙?に乗っかってる「攻殻」の方にはサイバーパンクな内容とは一見無縁な東洋風の鬼まで描きこまれている。で、クレジットを改めて読み込んだところ、「ART DIRECTION:TAKASHI MURAKAMI (HIROPON)」の記載を見つけたのでありました!内ジャケにおいても、「攻殻」のヒロイン・草薙素子の周辺に奇妙な東洋テイスト(鬼も何匹か)が仕込まれており、ますます村上隆テイストが盛り込まれていることに気づいてしまう。約20年前のCDにこんな発見しちゃうなんて!
●それにはある思い出が関係しているのです。もちろん士郎正宗原作でも、押井守のアニメ映画でも「攻殻機動隊」はボクの大好物であります。だからこのゲームのリリースパーティにも友達と行ったのですよ、1997年にね。たしか場所は恵比寿ガーデンホールMIJK VAN DYKE、石野卓球、JOEY BELTRAM の三人が朝までDJしてました。ゲームプレイブースも賑やかで、実物大のフチコマもあったような。…そこで、ボクは物販ブースで「DOBくん」Tシャツを買うのです。当時新進気鋭のアーティストだった村上隆「DOBくん」はボクにとってヒップなアイコン。ただ、なんで「攻殻」のイベントに「DOBくん」なんだろ?とは思ったけど。でも、納得!村上隆は、サントラのジャケデザインでこのプロジェクトに関わってたのね。
●で、ボクはこの物販ブースで、丸メガネのお兄さんから直接Tシャツを買ったのです。暗い会場でお客さんもワンサカしてる中、正直自信が持てなかったんだけど、後から考えるとアレは村上隆さん本人だったのでは?とイベントから帰ってから思ったわけですわ。でもなーアーティスト本人がTシャツ手売りしてるかな?…でもこの疑問も氷解しました。今回の個展では過去20年ほどの彼のテレビ出演映像をNHKさんが提供してまして。で、現在のでぶっちょヒゲ面ちょんまげ村上隆からは想像もつかないほど、20年前はほっそり茶髪青年であることが判明、そして間違いなくあのイベントでTシャツを売ってくれたお兄さんと同一人物であることが判明したのでありました。なんかウレシい!
●でも、そのTシャツは一回だけ来ただけで、奥さんが洗濯に失敗し、プリントが剥げて台無しに…。しかし捨てることも出来ず…だって作品が数億円で取引される作家だよ…状態がよければ鑑定団的に数十万とかになったかも。だから今もタンスの奥にしまってあります。


スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://unimogroove.blog4.fc2.com/tb.php/1837-58bdedcc