自律神経失調症とのお付合い(その69)~映画、障害者作業所に住民反対」編
●金曜日のデイケアメニューは、映画鑑賞会だった。東神奈川駅前の神奈川公会堂という所で、精神保健福祉支援チャリティーと称して、精神障害者の作業所にまつわる映画の上映会が行われるということで、我々デイケアメンバー一行はマイクロバスに乗って会場に向かったのであった。

「ふるさとをください」監督:冨永憲治、出演:ベンガルなど、脚本:ジェームス三木。
ベンガル以外は全然知らない役者さんだったし、監督もテレビドラマ系の人みたい。正直全然期待してなくて、またヒドい居眠りをしたらどうしようと心配になったもんだ。
●主催は、NPO団体・横浜市精神障害者地域生活支援連合会(長い名前…。)という人たち。精神障害者が社会におかれている立場を一般の人へ啓蒙していく試みとしてこの映画が作られ、全国様々な所で上映会が行われているらしい。
●この団体の代表さんが最初に説明をしてくれたのだが、これから上映される映画は、実際に和歌山県のとある町で起こった出来事が下敷きにされており、ここに描かれるトラブルは全国で同じ事が同じように起こっているとのコトである。ヒトコトで言っちゃうと、精神障害者の施設が新しく設立されるにあたっては、地元住民は激しい反対運動を起こし、大きな摩擦が起こる、というケースを端的に説明する映画なのだ。

●映画の中で、いくつかのデータが紹介される。統合失調症(一昔前の言い方では精神分裂病)の原因は先天性、外因性などイロイロあれど、その発症率は世界中ドコでも同じく0.7%、140人に1人の割合で発生する。ま、人付き合いのよい人ならば、かなりの確率でこの病気にかかる人に出くわすくらいの数だ。
●もう一つのデータ。日本の精神病院に入院している患者の数は34万人。この中で、既に退院しても十分な状態となっているのに、家族が受け入れず入院しっ放しになっている人(これを社会的入院という)が、なんと10万人もいるという。先進国の中でもこの数はズバ抜けて高く、意味もなく8年とか10年、入院生活を余儀なくされている人がたくさんいるという。

「精神障害者地域作業所」ってのは、精神病院から退院した人たちが集まり、クリーニングやパン作りなどに従事し社会参加していく場所である。ココで彼らは仕事をし、お給料を稼ぎ、生活を営む。
●ところが、こうした施設が作られる際には必ずと言っていいほど、地域住民の反対運動に直面すると言う。「キチガイが30人もやってきて、なにか仕出かしたらどうするツモリだ?」「町の評判が落ち、商店街の売り上げや地価に影響する」「行政や自治体は無責任に認可を出して、ワリを食うのは住民だ」「障害者を差別するつもりはない、ただ不安だから施設を鉄条網で囲って欲しい」映画には、このような露骨なフレーズが出てきて胸が悪くなる。ベンガルはこの反対運動のリーダーを務める地域の顔役であり、施設の活動に理解を示す娘と激しく対立することになる。
●作業所設立の説明へと、地域を回ろうにも冷たい反応をとる住民。「土下座するなら話を聞いてやってもイイ」という言葉も出て来る。結果、ろくに住民への説明も出来ないまま施設は完成するが、摩擦は深まるばかり。ベンガルの娘さんの尽力でやっと住民と施設との話し合いが実施されるが、悪意ある住民は暴力団員を稼働して説明会をメチャクチャにする…。

●オハナシは、最終的に相互理解で住民のヒステリックな反応はなくなり大団円!というお決まりのハッピーエンドになるんだけど、まあ、ハッキリ言って気分の悪い映画です。人間の差別感情ってエグイなあって。
医療費削減問題の見地から言えば「社会的入院」(患者自身は退院出来るのに家族側に退院させられない事情がある)は解消されればそれだけ財政的負担が減るのだから、家族にはナントカ引き取ってもらいたいと考えてしまう。むしろちゃんと引き取れよ!って気分になるでしょ。でもそういうワケにもイカンのです。障害者がいる家ってだけで、近所から白い目で見られ普通の暮らしが出来なくなってしまう現実がある。
●例えば、障害者が悪気なく近所の子供にアイサツしたとする。コレがスグに子供にイタズラをしようとした!って話になる。デイケアのメンバーさんにもウマく呂律が回らない人は幾らでもいる。彼らの発音に子供がビックリしたら、もうソレで子供の親は「危ない!アソコの家に近寄るな!」って感情になるだろう。このように地域社会から障害者を持つ世帯は孤立し、実際に引越を余儀なくされてしまう事もあるのだ。だから、家族は患者を引き取らない。デイケアのメンバーさんにも、妻に離縁され子供にも会えない人がいる。イイ歳したオジさんが「十数年振りに息子が電話をよこしてくれた、今度会うことになったんだ!」と異常にはしゃいでいたのも、ボクは目の前に見た。
●そんな無理解な社会に、障害者が大勢集まって来る施設が出来る。そりゃもう大変だ。障害者の実態を知らない人はビックリするだろう。しかし、実家に帰れない彼らは一人暮らしで生きて行かなければならない。職場を探さなくてはならない。生活保護水準の暮らしを強いられているメンバーさんもいるから、マジでリアルにボクには響く。
●全国に数ある作業所はそんな彼らの受け皿になる場所だ。冷静に考えれば、彼ら障害者を完全に孤立させる方が危険である。障害に関して正しい知識を持つスタッフや似た境遇を生きる仲間に囲まれている方が、彼らの健康を安定させるし、もしもの事態にもフォローアップすることが出来る。コレがたった1人誰も知らない所で発作を起こしてしまったら?そしたら本当に事件を起こしてしまうかも知れない。
●確かに、精神障害者による凶悪事件は後を絶たない。つーか、凶悪犯罪した後で精神鑑定して無理矢理責任能力なしの障害者になるヤツが多過ぎなんだよ! しかし、そんな事件が起こる度、作業所の人々は外出を避けたりしなくてはならなくなるのだ。そんで、こういう動揺に障害者の人たちはとても弱い。痛んだココロの古傷が口を開けてしまう。ツラく苦しい気持ちに捕われてしまう。

………もう、だんだんマジで腹立ってきた。
●以前なら絶対見ない映画だったろうし、関心も持たない問題だったと思う。しかし、ある意味もうボクには他人事とは言えない状況になってしまった。ボク自身もドッチの人といったら、マイノリティのチームに入ってしまうのだから。デカイ意味で捉えれば、医療費削減問題だって、もはや直接ボクの生活の利害に直結する。
●だいたいがね、家の近所に適当な施設がナイから、ボクは横浜の精神病院まで往復4時間かけて通ってるんだぜ!病院行くだけで交通費1500円以上だ! なんで都心にキチンとした施設がないんだ?もうわかるでしょ、キチガイが集まる施設は、都心には作れないんだ!住民の意思で!ボクの病院はどえらくヘンピな各駅停車の駅からバスで20分かけて行く所にある。しかもバスの数は一時間に2~3本!そんな奥地まで行かなければ、キチガイを集める施設は作れないんだよ!これが日本の社会の現実だよ!


●すいません、つい熱くなっちゃって……。


話題を変えて……、デイケアに研修の学生さんが来てました。
●なにげにかなり最先端の精神医療プログラムを実践してるボクの病院には、イロイロな所から見学や研修の人々がやってくる。看護師さんになるための専門学校から来たオンナノコと会話しました。
●オンナノコ「4月から11月まで、ずっと色々な施設や病院をまわってインターンみたいなコトをしてるんです。今週はココでスタッフさんのお手伝いをしてるんです」へー。えらく実践的なガッコウだ。若い娘としゃべると楽しいなあ。「イヤイヤもうワタシ25ですから」じゃあ4大出て専門に入り直したんだ?……資格がナイと今は仕事もないのかな……でも医療現場の仕事も大変じゃん。「そうなんですよ、最近はフィリピンから大勢看護師さんがやって来たじゃないですか、実は彼女たちスゴく腕がイイんですって。負けちゃいそうです」ほー、フィリピン人の看護師さん?
フィリピンは、出稼ぎ労働者が主要輸出品目になってる「出稼ぎ大国」だ。日本でパッと思いつくのはフィリピンパブとかだけど、実は全世界の国々で、優秀なメイドさんとして雇われたり、中国やインド、アメリカなどの工場労働者として活躍してる。
●医師不足・看護師不足に苦しむ医療行政は、一昨年くらいから数千人単位でフィリピンから看護師さんを医療現場に迎え入れる政策をとってる。新聞記事では知ってたけど、実際に医療現場でそんな話題に触れたのは初めてだ。フィリピン人のスタッフと日本人のスタッフの間に摩擦とか格差とかあったりすんのかな? 腕は確かというのは安心な話だが、繊細な所でカルチャーギャップとかあるのかな?
イラクからEU諸国へ移住を希望する難民の9割を、今年はスウェーデンが引き受けたと言う。一昨日くらいの新聞記事かな? スウェーデンって人口1000万人弱で東京都より人口少ないんだぜ、そこにドカッと難民を受け入れる包容力って素朴に立派と思った。一方難民受け入れに超消極的な日本、しかし少子高齢化で深刻な労働力不足になる将来、どっかのタイミングでたくさんの移民を受け入れないと立ち行かないと思う。「上司が女性で気を使う」とかが雑誌の見出しになってるけど、「部下が全員外人で気を使う」時代が来るわけだ。職場の隅にメッカへのお祈りスペースを設けるとか、名前の発音が難し過ぎるからニックネームをつけるとか。あれ、ちょっと愉快? そんな中ゆとり教育でスポイルされた今のキッズは、移民との競争にも負けて低賃金労働に追い込まれ、ネオナチみたいな極右民族主義に走るかも…。


さらに堅苦しいハナシをもひとつ。すんませんね。
●スタッフさんの人数のヤリクリがつかず、この日は多部署から応援のスタッフさんまでが来てた。朝礼のアイサツで「心理療法課から来ましたイイツ(仮名)です、よろしくお願いします」。んっ?「心理療法課」?あのサッパリ正体の掴めない「分析的心理療法」に関わってる人かな?ちょっとイロイロ教えてもらおう。
●あのー、「心理療法課」とお聞きしましたけど、あの「分析的心理療法」ってナンなんです?小柄なメガネの女性イイツさんは意外な質問にビックリしながら「よくご存知ですね、分析的心理療法なんて」いや、今一応やってるんですよ。でもさっぱり意味がわかんない。もしよかったら一体どういう仕組みなのか教えてもらいたくて…。「すいません、ワタシちょっと専門が違うんです。ワタシは行動認知療法を専門にしてるんです」……行動認知療法……またまた難しい言葉が出てきたぞ……。

それはナニかと訪ねたら、キーワードは「学習理論」とのこと。
●例えば電車の中でパニック発作を起こしてしまった患者さんがいるとする。その患者さんは、パニック発作という強烈な経験と電車の中という条件を結びつけて覚えてしまうので、その後、電車に乗るだけでパニック発作が起こるかも知れないという恐怖に襲われ電車に乗れなくなってしまうという。「電車=パニック発作」というパターンを「学習」してしまったというわけ。
●で、そんな患者さんを治療するためには、この「学習理論」を逆手に取って、「電車に乗ってもパニック発作は起こらない」という経験を「学習」させて、不安を取り除く。これが「行動療法」。手を何回洗っても気が済まない潔癖性の人には、ワザと手を汚して10分間ナニかの作業をしてもらう。それで、手が汚れてても問題が起こらない事を「学習」してもらうという。
「認知療法」も大まかに言えば同じ原理で、人の視線が気になって駅前や広場等人が集まる場所に行けないという患者さんには、一緒に駅前に行って実際にコチラの事を見てる人の数をカウントし、そんなに誰もが自分のコトを睨んだりしてないことを実証させるという。「証拠探し」って言葉を使ってたかな。
●コレは1960年代のアメリカで考案された比較的新しい心理療法で、アメリカらしいプラグマチックな思想が反映されてる。イイツさんが臨床の現場に関わるようになったのは最近の事で、ずっと実験をしてた研究者だったという。「ネズミにストレスを与えてその影響を見るとかするんです」ネズミは泳げないから、ワザと小さい発泡スチロールの小舟に乗せ思い切りドキドキさせて、その心拍数の変化を計測したりするという。……人間にも応用できるんですか…ネズミをビビらせる実験が? 「まーある意味では。もちろん人間相手の実験もします。両腕に電気が流れる腕輪をはめて、クイズに失敗したら電撃を与えるとか」ソレってそのままテレビ番組の一コーナーになってるじゃないすか。
●で、「分析的心理療法」は?「それは100年も歴史がある古典的な手法なんで、専門外のワタシには全然わかんないんです」あー、あの、フロイトとか、そういう時代ですか。専門が違うと全然違うんですね。

ついでにもう一個聞いてイイですか?ラカンってどうなんです?
フロイト、ユング、この二人の後に出て来る有名な心理学者といえば、ジャック・ラカンじゃないですか。でもあの人カンケイの本は全部ケムに巻くよな禅問答みたいな話ばっかりで、意味分かんないです。アレって役に立つんですか?「ラカンですか……。岐阜大学にエラいラカン研究の先生がいます。ラカニアンっていうんですけど。でも、臨床的にラカンを使ってる人は多分日本にはいないんじゃないでしょうか」ラカンの地元フランスには、一部実践に使ってるグループもいるかも知れない、ラカンの娘婿さんとか。「でもアレはもう心理学というより哲学ですよ。もう別の所に行っちゃってます」イイツさんは言ってた。ああ、なんか大分勉強になった。ラカンは病気を治すのには使えないとな。


知らない事が多過ぎる。そして無知は危険だ。
●ボクは自分が病気になったもんだから、この世界にフラフラッと迷い込んできた。医者に通って病気の事、精神安定剤抗うつ剤の事を知り、精神科デイケアに通って似たような病気の人たちの暮らしぶりを知った。自立支援医療制度のような社会福祉行政の事も初めて知ったし、確定申告の医療費控除の仕組みも知った。精神障害者への社会的差別やそれと戦う人の運動を知った。心理学の実践や理論もサワリだけだけどアレコレ知る事ができた。ボクのような新聞をとってもいない人間が、医療費削減政策後期高齢者年金制度の事まで考えるようになった。でもこの世界はホントに奥深い。分からないコト、不条理なコトがいくらでも出て来る。
●ボクの「ねんきん特別便」のフィードバックが返ってきて、カウントされてなかった年金部分がキチンと修正されたが、ワイフは「特別便」すら来ない。フィードバックのお知らせに「配偶者の年金も確認しましょう!」ってデカく書いた紙が入ってたから、社会保険事務所に電話をかけた。そしたら「10月までに届くはずですから待って下さい」だと。あなた方が送ってきた書類に「配偶者の確認を」と書いてあるから電話してるんだ、それでただ「待って下さい」ってどういうつもりですか?「すいません、その紙を見ていないもので」アンタたちは、自分たちが配っている書類すら見ないで仕事してるんですか?そんな仕事ぶりだからユルいっていうんですよ!コッチは大金払ってるんだから、フザケないでマジメに仕事して下さい!久々に電話越しにマジ切れ。
●マジで、今の世の中、ボケッとしてるとホントバカを見る。世の中が複雑になり過ぎてて損得勘定も難しい。誰かがそんな世間の無知につけ込んで、甘い汁を吸っている。享受すべき権利を持つ人がないがしろにされている。無知は危険だ。無知は、他人を傷つけ、自分も傷つける。

●以前の「自律神経失調症とのお付合い」シリーズは下記の記事にまとめております。ご参考に。
 http://unimogroove.blog4.fc2.com/blog-entry-223.html

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