ジャズ読書。そんでジャズリスニング。

菊池成孔&大谷能生「東京大学のアルバート・アイラー 東大ジャズ講義録・キーワード編」

菊池成孔&大谷能生「東京大学のアルバート・アイラー 東大ジャズ講義録・キーワード編」
●以前このブログで紹介した「東大アイラー・歴史編」がすごく楽しかったので、続編にあたるこの本もモリモリ読みました。スパスパと切れ味の良い菊池さんのロジック構築とこなれた弁舌に、パズルが鮮やかに組み上げられてような快感を感じます。
●四つのキーワード、「ブルース」「ダンス」「即興」「ポスト・バークリー」についてしっかり講義、テーマごとにゲストも招くサービスぶり。「ダンス」の回の野田努さん、「即興」の回の大友良英さんのハナシも実に楽しい。でも、最終回の最新鋭音楽理論は、演奏家でも評論家でもないボクには100%理解出来ない内容で完全にブッチギラレました。

●だからさ、菊池さんの音も聴くわけさ。

DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN「STRUCTURE ET FORCE」

DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN「STRUCTURE ET FORCE」2003年
●タイトルが「構造と力」。80年代ネオアカデミズムの聖典、浅田彰さんの同名本からタイトルを拝借してる。菊池さんの著述家・理論家としてのバックボーンにはあの時代の思想潮流があるってのがハッキリわかります。浅田彰「構造と力」と言ったら、60年代のマルクス「資本論」みたいに大学生の定番本みたいなモンだったじゃないですか。90年代世代のボクも学生時代にはこのホンを読んだ。ああいう気分って00年代になったらもう完全に滅びちゃったのかな? 今の若い人は読まない?別のホンが重要になってるのかな?
●今、菊池さんのサイトでこのバンドのコンセプトについての文章を見つけました。100%ご本人が明快に解説しちゃってるので、ソレ読んでもらえばボクがココでなんか言うことは全然ナイっす。奇妙な変拍子を駆使してるクセして、ちゃんとダンスしたくなるグルーヴ。菊池さんが影響関係を公言する70年代マイルスデイビス風ファンクド根性の含有量が高いけど、ビッグバンドという体裁で繰り出すアンサンブルにはモダンジャズ以前のポップさ加減も溶かし込まれてる。二律背反する要素を激突させるダイナミズムは、天性のアマノジャクである菊池さんの性格をハッキリ映し出してるようでもあります。ぶっちゃけ、小難しいようでいて、シンプルに踊れます。ヒップホップ好きでも、テクノ好きでも、ロック好きでも。


ジャズと「ダンス」ってどうなのさ?
CHARLIE PARKER らビバップのプレイヤーらが、悪いクスリと酒をアオッて黒人専用クラブで夜な夜な鳴らしてたアドリブ合戦が、ひょんなコトからエッジーな芸術的価値をまとって、ジャズの歴史にスパッと大きな切断面を作っちゃった。「モダンジャズ」の誕生と、ソレ以前のジャズを「モダンじゃないジャズ」と切り捨てるポジション。モダン以前のビッグバンドジャズは、正しくダンスに奉仕する音楽だったはずなのに、「モダンジャズ」はアドリブが極端過ぎて踊れない。困ったことに「ジャズで踊っちゃイケネえよ」って気分まで出来てしまった。
●じゃあ、アシッドジャズってどうなのさ?90年代の人間としてボクは素朴にそう思うワケだ。実は父親が CHARLIE PARKER を愛好してたっつー事情もあって、ボクはクラブミュージックから登場したアシッドジャズには少々戸惑いを感じてた。「コレ、ホントにジャズか?踊れるしカッコいいとは思うけど、アドリブ曲芸プレイこそ真骨頂の、CHARILE PARKER のジャズとは全然違うんじゃナイの?」89年頃の高校生だったボクはモダンジャズの因習に深く捕われてたので、アドリブの要素がないアシッドジャズ(打ち込みって段階でもう即興の余地がゴッソリなくなるわな)を、ストレートなジャズとは思わなかったのです。カッコいいけど、コレは別モンだと。
●この辺の事情を「東大アイラー」では、ダンスミュージック界最高の論客、野田努氏が解説してくれてます。「クラブミュージックにおいて、ジャズとはメタファーであり、象徴性である。黒人音楽を巡るファンタジーであり、いささかノスタルジックなファンタジーである」。…あー、なんか難しい表現なので、ボクなりに噛み砕いてみます。

三つ子のモッズ魂、なんとやら。
アシッドジャズは、ご存知の通りイギリスのクラブミュージックから登場した音楽。イギリスってのがポイントね。イギリスはモッズの国だから。モッズに代表されるイギリスのユースカルチャーは、歴史上様々な局面で黒人音楽を積極的に受容してきました。本国アメリカのユースカルチャーよりも貪欲にね。ロックンロール自体だって、ELVIS PRESLEY が兵役について一旦アメリカではブームが終わっちゃうのに、アメリカのR&Bをタップリ聴いて育ったイギリスのロックバンド(ストーンズ、ビートルズ)に攻め込まれて、アメリカ市場はロック色に染め上げられます。イギリス人は、アメリカ人のように近所に黒人さんが住んでないのに、または近所にいないが故か、ブラックミュージックにより強い憧れを伝統的に持ってるワケです。イギリス人にとって黒人音楽はファンタジーなんです。多分、日本人にとっても同じだと思う。「ジャズは、遠きにありて想うもの」


●だから「ジャズって?」という問いはおいといて、素朴な憧れが音源に出てきちゃう。

THE BRAND NEW HEAVIES「HEAVY RHYMES EXPERIENCE VOL.1」

THE BRAND NEW HEAVIES「HEAVYRHYMES EXPERIENCE VOL.1」1992年
アシッドジャズの総本山、その名も直球のレーベル ACID JAZZ RECORDS。ソコの看板バンドであります THE BRAND NEW HEAVIES は日本でも有名になりましたよね。ACID JAZZ からは JAMIROQUAI もデビューしてる。
●このバンドの出世作がコレです。太いベースラインがカッコいいファンクミュージック。そんでもってソレに乗っかるのが、アメリカのヒップホップアーティスト。これは当時において最新型だったアメリカンブラックミュージック、ヒップホップとイギリスのモッズ根性がガッツリコラボしました、という記録なんですね。最新型の黒人音楽に対する素朴な興味と敬意がハッキリ現れてる。
●参加ラッパーは、MAIN SOURCE、GANGSTARR、GRAND PUBA(ex. BRAND NUBIAN、BLACK SHEEP …この辺は、当時ニュースクールと名乗ってジャズをサンプルの素材にしていった新感覚派ですな…そして、KOOL G RAP、MASTA ACE、ED O.G. …この辺はむしろミドルスクール系かも…さらには LA の四人組 THE PHERCYDE も参加しているぞ。レゲエ組としては JAMALSKI TIGAR。イギリス文化ではレゲエも重要な黒人音楽ファンタジーの源泉だし。

JAMES TAYLOR QUARTET「SUPERNATURAL FEELING」jpg

JAMES TAYLOR QUARTET & NOEL MCKOY「SUPERNATURAL FEELING」1991年
●このユニットの前身は、THE PRISONERS というガレージロックバンド。BILLY CHILDISH のバンドとツアーしてたっつーからマジでパンクだ。でも一方で、ネオモッズのバンドでもあった。PAUL WELLERTHE JAM のパンクアティチュードで登場して THE STYLE COUNCIL でブラックミュージックへの憧憬を明白に打ち出すのと同じ感覚?パンクとジャズは、モッズ魂から見ると矛盾しないのです。(しないと理解するのにボクは結構時間がかかったんだけど)。だから元祖モッズ THE SMALL FACES にも影響を受けてて、その結果 JAMES TAYLOR 本人はハモンドオルガン奏者ってワケだ。
●で、THE PRISONERS JAMES TAYLOR QUARTET も、まだレーベルとしての体裁を整える前の ACID JAZZ がマネージメント契約をしてたバンドなんです。アシッドジャズ黎明期の80年代後半から、モッズ美学に裏打ちされたジャズファンクを演奏してたのですね。だから地味なように見えて、重要バンドと思ってます。
●このアルバムは、黒人ボーカリスト NOEL MCKOY をフィーチャーし、彼の伸びのある艶っぽい声を使って、より洗練されたR&Bを目指した物件。テンポが速くてハウシーな気分も。シングルカットされた「HOPE & PRAY」「LOVE THE LIFE」はリアルタイムで12インチで購入したモンだ。フロアで聴くと楽しい!

NEW JERSEY KINGS「STRATOSPHERE BREAKDOWN」

NEW JERSEY KINGS「STRATOSPHERE BREAKDOWN」1995年
●さてさて、コチラは JAMES TAYLOR QUARTET の変名ユニット。コチラはリリースも ACID JAZZ RECORDS から。わざわざ変名ってのは契約上のネジレがあったのかな?
NEW JERSEY KINGS のアルバムはコレとあともう一つあるんだけど(他にもあるのかな?)、両方ともこんな感じのマンガチックなジャケです。「PARTY TO THE BUS STOP」ってアルバムは、もろMILES DAVIS「ON THE CORNER」のジャケをマネッコしてます。このアルバムも、FUNKADELIC/PARLIAMENT のマンガチックなスペースオペラテイストをなぞってるように見える。この辺にも微笑ましい憧れ意識が見えるでしょ。
●ほんで、コッチの名義の方が硬派にモッズジャズ。甘くない。オルガンがビゴビゴ言ってて、リズムがファンクに粘ってて、安易にスタスタ走らない。コッチの方が楽しいという人もいるだろうな。でもさ、モダンジャズとは違うのさ…。

NEW JERSEY KINGS  MILES DAVIS(ほら見て!ソックリだ、この二枚!)


COURTNEY PINE「UNDERGROUND」


COURTNEY PINE「UNDERGROUND」1997年
●今日初めての、黒人さん主体の音源だ。UK ブラックであるサックスプレイヤー COURTNEY は80年代まではストレートアヘッドなジャズを演ってた男なので、そのプレイは折り目正しくビバップなアドリブを導入するスタイルだ。
●ただし90年代になると、彼は自分の音楽にレゲエ、ヒップホップ、アシッドジャズの要素を盛り込むようになる。このアルバムだって、ヒップホップ的なループグルーヴを大胆に使っていて、バンドにはターンテーブリストがいる。90年代型のジャズフュージョン。
●黒人音楽への憧憬が、アシッドジャズの推進力だとするなら、コレはアシッドジャズじゃないかも知れない。だってカレ自身が黒人さんなんだもん。ただし、UK ブラックとしての自覚が表現の根っコにあるなら、つまりアメリカ黒人ではない立場から、アメリカ由来のジャズを解体改造しようとしてるならば、やっぱイギリスという環境が作り上げたジャズ表現というコトにはなると思う。
●聞けば、彼はドラムンベースさえも自分の音楽に引き込んでるという(その音は聴いたコトないけど)。ACID JAZZ、そして TALKIN' LOUD の創始者 GILES PETERSON は、ドラムンベース「21世紀のジャズだ」と公言してたもんね。イギリス人と黒人音楽の距離感。コレはココんトコロのボクの関心テーマなんで、今後もアレコレ音源を掘って行こうと思ってます。



●ジャズ少女マンガ。

小玉ユキ「坂道のアポロン」1~4巻

小玉ユキ「坂道のアポロン」1~4巻
●1966年、JOHN COLTRANE もまだ生きてて、モダンジャズがカッチリとモダンジャズとして機能してた時代。九州の田舎町に引っ越してきた高校生がひょんなキッカケでジャズに出会う。そして友情や恋愛に目覚める。
●横須賀からやって来た転校生・くんは、頭脳明晰の優等生。しかし家族の事情で転勤が多く、友達を上手く作る事が出来ない。しかし転校初日に出会った札付きの不良、千太郎と不思議なカンケイを作る。方や流浪の転校生、方や鼻つまみモンの不良。ハミダシモノ同士の奇妙な同盟関係。
●コレに絡むは、しっかり者の学級委員の律子ちゃん。面倒見のイイ彼女は薫の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれるし、乱暴者の千太郎も彼女には頭が上がらない。しかも彼女の家は町で唯一のレコード屋さんだったのだ。その地下室は誰も知らないジャズの練習室。千太郎は大きな体躯を使ってダイナミックなドラムを叩く。クラシックピアノを習ってたも負けじとスウィングするプレイを弾き出す。ジャズを介して、セイシュンの絆が結ばれてく。これ、「のだめ」「BECK」と変わらないほどのステキな音楽マンガになるよ。注目ですよ。


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